1981年に飛行機事故で突然この世を去った向田邦子(1929-1981)。もし生きていれば、今年で90歳になります。いったいどんな作品を書いていたのでしょうか。才能が惜しまれてなりません。 向田邦子は映画雑誌の編集者からスタートし、その後、ラジオ・テレビドラマの人気脚本家になります。多忙をきわめるなか、46歳の時に乳がんに罹ります。術後の後遺症でしばらく右手が使えなくなり、左手で「のんきな遺言状」のつもりで書いたエッセイ集『父の詫び状』は、随筆家の山本夏彦氏に「向田邦子は突然あらわれてほとんど名人である」と言わしめたほどでした。その後も多くの人気ドラマの脚本やエッセイ、小説を書き、1980年には短篇連作小説『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』で、第83回直木賞を受賞します。これからますます円熟期を迎えるというとき、旅行中の台湾で飛行機事故に遭いました。 向田作品は教科書にも取り上げられるなど、今なお数多くの人に読み継がれています。その人気は作品だけにとどまらず、独り暮らしの日常を愉しむライフスタイルそのものが、若い女性たちからも多くの支持を集めています。 51歳という短い人生を駆け抜け、風のように去っていった向田邦子。多才で人間的な魅力にあふれた向田邦子の資料をご紹介します。
図書のとびら
『向田邦子の青春 写真とエッセイで綴る姉の素顔』
向田和子編著 ネスコ 1999 請求記号:D3/ムコ (110900628) 女性関連資料室1 公開
妹・和子氏による生前のエピソードを綴ったエッセイ集です。没後、見つかった20代の頃を中心とした100点余りにわたる秘蔵写真とともに、しっかり者の長女、ときにはおっちょこちょいでシャイな一面もあったという向田の素顔が、余すところなく語られています。写真からは知的な美しさやファッションセンスの良さとともに、仕事に対する真摯な姿勢やその凛とした生き方までもが伝わってきます。 現代の自立する女性たちのあこがれというのも頷ける、そんな向田の魅力が伝わる1冊です。
『向田邦子愛』
向田邦子研究会 著 いそっぷ社 2008 請求記号:910.26TT /2776 (22260483) 県立公開
向田邦子の人と作品を敬愛する会員によって運営されている「向田邦子研究会」。発足20年にあたり刊行された本書には、会員による「私の好きな向田作品ベスト10」などのアンケート結果がコメントとともに載っており、愛読者のみならず、これから読む人にも愉しめる内容になっています。また、日本各地に住む会員たちが、向田ゆかりの地を訪ね歩き、カラー写真やイラストで紹介し、文学散歩のガイドブックとしても活用できるようまとめています。向田への熱い想いが詰まった1冊です。
『向田邦子の陽射し』
太田光 著 文芸春秋(文春文庫) 2014 請求記号:910.26/3365 (22725873) 県立書庫
お笑いタレントで文筆家でもある太田氏による作品論です。「向田さんの作品は、不道徳である、と思う。」という刺激的な一文から始まる本書は、太田氏の偏愛とも言える向田作品への尽きせぬ愛情がストレートに伝わってくる1冊です。太田氏が選んだ「読む向田邦子ベスト10」の原文も掲載されており、作品論とあわせて読むことができます。ちなみに、太田氏選・向田小説ベスト1は『かわうそ』だそうです。
『向田邦子の手料理』
向田和子/監修と料理製作 講談社 編 講談社 1989 請求記号:K12/ムコ (110367885) 女性関連資料室2 公開
向田は食べることも料理をすることも大好きで、女性が一人でも気軽に立ち寄ることのできる小料理屋を妹・和子氏と開いたほどでした。この本は生前、向田がよく作った料理を妹が再現した料理本です。向田は忙しい仕事の合間にも人を招き、気張らず簡単で美味しい料理をふるまったそうです。本書には、実際に包丁を握って台所に立つ向田の写真も載っています。料理の数々は、向田作品に出てくる昭和の一家団欒の食卓に並ぶような懐かしいものが中心です。食や暮らしに関する向田の言葉も多数引用され、単なる料理のレシピ本でなく、向田の普段の暮らしぶりや、昭和の食文化の一端が垣間見える内容になっています。
雑誌のとびら
「向田和子×原田マハ 弱き者への優しい視線」
> 『オール読物』 > 文芸春秋 第72巻第10号 2017年10月号 通巻1026号 p156~163 請求記号:Z910.5/94
『特集向田邦子への憧憬』に掲載された、妹・向田和子氏と作家原田マハ氏による対談です。このなかで原田氏は、「文体から、作品にメッセージを込める手法まで、向田文学から全部学んだ気がしています。」と述べ、自身の仕事に与えた影響力の大きさと同時に、一人の女性として人生のロールモデルであったことを明かしています。一方、妹の和子氏は、長女であった邦子が弟妹にみせたさりげない優しさや、ときに人生の指針ともいえる一言をアドバイスしてくれたエピソードを語り、生前の邦子の素顔を生き生きと蘇らせています。
「やさしい先達たち 第一回 向田邦子 [与謝蕪村とのつながり]」 澤地久枝・文
『本の話』文芸春秋 第6巻第8号 2000年8月号 通巻第63号 p2~5 請求記号:Z051/572
「ドラマでも小説でも、テーマがまとまらないとき、わたしは蕪村を読むのよ」。 生前、向田は澤地氏にこう呟いたことがあったそうです。澤地氏によれば、「向田さんには蕪村の句によってかきたてられる感情の豊かな泉があった。刳(えぐ)られるような痛切な思いをじっと見きわめ、それを軸にして人間模様を生み出した日があったということだと思う。」と記しています。一つ違いのおなじ昭和ヒトケタ生まれの「長女」として、「言葉の通じあえる」親友だった二人。郷愁に満ちた蕪村の俳句と絡めつつ、生前の向田のエピソードに触れたこのエッセイには、親友を突然喪った痛みと寂寥がにじみ出ています。
新聞のとびら
「向田邦子 今なお熱い支持 『永遠の姉』 強さと優しさ」
日本経済新聞 2001年8月16日夕刊 p11
「(前略)都心のマンションで一人暮らし。猫を飼い、器や調度に凝る--。現代女性があこがれる暮らしを四半世紀前におくっていた向田邦子さんは、没後も〝現役〟であり続ける。(後略)」
「私の履歴書 自宅マンション 隣人は向田邦子さん 郵便受け前で親交深める」 阿刀田高・文
日本経済新聞 2018年6月21日 p401
「(前略)私は向田さんの部屋を訪れたことは一度もなかった。しかし、廊下ではよく会う。とりわけずらりと並んだ郵便受けの前あたり、それがほとんど隣同士といってよいほど近い位置なのだ。向田さんは気働きがあって、社交的だ。会ったとたんに、『この前のあなたの小説、よかったわよ』と雑誌に発表したばかりの作品を絶賛してくれる。(後略)」
インターネットのとびら
"実践女子大学・実践女子大学短期大学部図書館/向田邦子文庫"
https://www.jissen.ac.jp/library/info_collection/book_collection/
向田の母校である実践女子大学図書館の「向田邦子文庫」特設サイトです。全著作の初版本をはじめ、約3千点の文献および、脚本ドラマのビデオなども所蔵しています。文庫の資料はデータベース化されており、『向田邦子全集』 全3巻 (文芸春秋刊)の自立語索引もウェブ上で検索可能です。
かごしま近代文学館・かごしまメルヘン館
https://www.k-kb.or.jp/kinmeru/
向田は父親の転勤に伴い、小学生時代の数年間を鹿児島市で暮らし、晩年までこの地に愛着を持ち続けました。その縁で、かごしま近代文学館では遺族から寄贈された遺品をもとに、「向田邦子の世界」という展示コーナーを設けています。また、「かごしまデジタルミュージアム」では、収蔵品の直筆原稿や愛用した洋服などの画像を見ることができます。
(「かごしまデジタルミュージアム」へのアクセスはホームページ下部のバナー、もしくは「収蔵品」から)