日本は火山国であるがゆえに温泉という恩恵を受けています。神奈川県には世界的に有名な箱根をはじめ、万葉の頃から世に知られ、古代には「薬師の湯」と呼ばれた湯河原、丹沢には武田信玄の隠し湯といわれた中川温泉など、数多くの温泉があります。こうした温泉にはその成分が薬のような作用をしたり、温熱や水圧による血行促進、温泉地の風景、森林浴等の環境によるストレスの軽減など健康になる効果がありますが、こうした「湯治」効果だけでなく、観光施設として人気を得ている側面もみられます。江戸後期 には庶民の間で箱根へ湯治に行くことがブームとなり、その結果浮世絵や滑稽本の題材として取り上げられて、さらに人気が出るようなことも起こりました。
今回は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた神奈川の文化発信として、「神奈川と温泉」を取り上げ、その歴史や文化を紹介します。
かながわ資料のとびら
『かながわの温泉 改訂新版』 (かもめ文庫:かながわ・ふるさとシリーズ 60)
禅馬三郎著 神奈川新聞社 2000 請求記号:K291/467A 常置 (60305034)かな書庫
(7月11日(水)まで新館3階で展示中)
本書は神奈川県全域の温泉を網羅して解説しています。箱根の十七湯、湯河原温泉、丹沢の温泉などの他に湘南や横浜など幅広い温泉について、その歴史や施設を紹介しています。廃業した施設についても言及しており、各温泉地の推移が分かります。巻末の「温泉旅館・ホテル一覧」を1994年に刊行された旧版と比べても、温泉地の情勢が見えてきます。
『神奈川県温泉誌』
神奈川県温泉地学研究所企画編集 神奈川県衛生部環境衛生課企画編集 神奈川県衛生部 1983 請求記号:K45/204 常置 (51207587) かな公開
第1章で県内各地域の温泉の歴史と現況を説明し、第2章と第3章で温泉行政のあゆみを解説しています。昭和23年施行の温泉法について、目的や制定の背景の説明があります。温泉開発技術の変遷の具体的な記述があり、また泉質の表示など化学的な記述も多くみられます。大平台や強羅の開発、小涌谷の発展や真鶴半島における温泉開発の試みなど技術的な説明も交えながら温泉行政のあゆみが綴られています。 第4章は資料編で、昭和4年の「神奈川県温泉地区取締規則」、昭和55年の「神奈川県温泉保護対策要綱」などが収録されています。
『箱根七湯 -歴史とその文化』 (有隣新書;14)
岩崎宗純著 有隣堂 1979 請求記号:K291.85/123 常置 (50045582) かな公開,
213.7L/40 (10427623) 県立書庫
冒頭で箱根の火山と温泉の関係について述べ、第2章からは中世、江戸期、明治とそれぞれの時代における箱根の温泉について述べています。中世においては湯治場としての箱根を、宗教的背景などを文献の記述を引きながら述べています。江戸期については、七湯の成立から湯治の実態、温泉の発展を背景にした文化について、浮世絵や文学、温泉土産としての箱根細工などを取り上げて述べています。明治期については文明開化を背景にした箱根の変容を述べています。
『箱根湯本・塔之沢温泉の歴史と文化』
箱根湯本温泉旅館協会編 夢工房 2000 請求記号:K68.85/119 常置 (60272861) かな公開
箱根湯本温泉旅館組合創立50周年記念誌として刊行された本書は、箱根湯本・塔之沢温泉の概要と温泉行政の解説を序章としています。第1章で中世、第2章で近世、第3章で近代、第4章で現代の箱根湯本・塔之沢温泉について解説しています。鎌倉時代の湯本温泉の開湯から秀吉の小田原攻め、江戸期の塔之沢温泉の開湯、将軍家への献上湯や大名湯治、一夜湯治をめぐる争論など、さまざまな記述があります。とくに明治以降は道路の整備、馬車鉄道の開通など交通機関の整備により、保養地としていっそう発展していく様子がまとめられています。
第5章は温泉旅館組合について述べられ、第6章は10人の組合員による座談会の様子が収録されています。
図書のとびら
『温泉の文化誌』(論集温泉学I)・『湯治の文化誌』(同II)・『温泉の原風景』(同III)
日本温泉文化研究会編 岩田書院 I:2007,II:2010,III:2013 請求記号:383.6SS/115 /1~3(I:22093934),(II:22425052),(III:22689145) 県立公開
2005年春、温泉に関心を持つ歴史学・考古学・民俗学・地理学・宗教学・地質学・化学の研究者十数名によって結成された研究会による研究報告集です。温泉地に形成される多様な文化を研究すべく、分野の垣根を越えて温泉を論じています。II巻とIII巻に柘植信行氏の箱根をテーマにした論文が収録されています。
『江戸の温泉学』 (新潮選書)
松田忠徳著 新潮社 2007 請求記号:383.6SS/114 (22067144) 県立公開
本書は「温泉教授」の異名を持つ著者が、週刊誌に連載した記事をまとめたものです。江戸時代に花開いた温泉文化の起源から江戸の温泉が医療、科学、遊興等の各分野で発展していく様子を多くの古書や資料を基に読み解きます。「箱根七湯」と呼ばれ、将軍へ献上もされた箱根の温泉が広く湯治客に好まれた背景など、江戸期の温泉を深く理解できます。
雑誌のとびら
「温泉町の戦後史~箱根湯本・塔之沢温泉を中心に~」
『神奈川地域史研究』 神奈川地域史研究会 第21号 2003年3月 請求記号:K20/30/21 常置(60357803)かな公開(図書扱い)
湯本正眼寺の岩崎宗純住職による総会の記念講演録。戦後の湯本の温泉の移り変わりをそこに生活していた筆者の実感として述べています。江戸時代の一夜湯治争論や明治期の福住正兄らによる箱根温泉の近代化を導入として、戦時中の疎開児童の受入れや戦後の進駐軍や闇成金による温泉の利用等、文献に残らない実体験も語られています。
「神奈川の温泉-温泉ビジネスの新しい動向-」
『京浜文化』 神奈川県立川崎図書館 第31巻2号(通巻130号) 1989年12月 請求記号:ZC936
神奈川県温泉地学研究所職員による県内の温泉動向の論述。温泉の定義や県内温泉の特徴、温泉利用状況などを検証したのち、(当時の)新しい入浴ビジネスといえる事例を紹介し、今後の温泉のあり方や懸念を述べています。
インターネットのとびら
神奈川県温泉地学研究所
https://www.onken.odawara.kanagawa.jp/
温泉源の保護、開発、利用についての調査研究を行う、県立の研究機関のホームページです。地震・地殻変動に関する観測データなどを公開するページや地下水・温泉に関するページ、火山・地質に関するページなどで構成されています。
神奈川県温泉関係の手続きについて(新規の手続き)
http://www.pref.kanagawa.jp/docs/m7k/onsen/p2116.html
温泉を新しく掘削し、使用する場合に必要となる手続きについて、「温泉新規掘削から使用までの手続きの流れ」として、事前調査や許可申請の手続きや必要書類の説明をしています。必要様式等はダウンロードできます。
関連展示
関連事業として、館内2ヶ所で展示を行っています。
企画展示「かながわと温泉 文学に描かれた温泉~文豪との関わり」
平成30年5月11日(金曜日)から8月8日(水曜日) 本館1階展示コーナー
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/yokohama/information/tenji180511.htm
ミニ展示「箱根七湯と箱根温泉絵図」
平成30年4月10日(火曜日)から7月11日(水曜日) 新館3階 エレベーターホール
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/yokohama/information/chiikitenji180427.htm