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本の表紙画像 『会社を綴る人』 朱野帰子著.jpg私が勤務する県立川崎図書館は、「社史」を約2万冊所蔵し、その質・量ともに全国有数のコレクションとなっています。そもそも社史とは何なのか、その前にそもそも会社とは何なのか?私自身、会社員として時を過ごした経験があるのですが、自身の会社を深く知ろうともせず、会社という概念を意識することもなく、日々を過ごしていたような気がします。紹介するこの本は、社史とは、会社とは?というその疑問に対する答えを教えてくれるような小説です。

主人公の青年は、面接のためにその会社の社史を読みます。65年の歳月が記録された社史のページをめくる手は止まらず、巻末のあとがきまで食らいつくように読み続け、気がつけば朝、そのままその感動を伝えるべく履歴書を一気呵成に書き上げます。その熱意によって入社が決まり、いよいよその会社で働き始めた彼が過ごす毎日。その頃、会社は転換期を迎え...。

本の中に、「社史が語るのは過去だけではない。」という言葉があります。主人公の青年は、取り柄もなく、ミスが多く、ブロガーの同僚にネットで悪口を書かれています。それでも自分に出来ることを探し続け、実行していきます。彼だけではなく、悪口を書いている同僚も、古参の社員たちも皆、ひとりひとりが日々奮闘し働き続けます。その毎日こそが、会社の歴史=社史なのだ、と私の疑問が少し解消されて行きます。

過去の記録であることはもちろんのこと、情報の共有化であったり、社員教育のためであったりと、社史をつくる目的は、各々の会社でさまざまであると思います。会社の毎日の積み重ねが社史となり、日々新しい歴史が作られ、引き継がれていくのです。社史と会社の関係性をうかがい知ることができ、私の疑問がまた解消されていきました。

小説の最後、彼は自ら「社史」を綴ります。彼が過ごした会社の最後の2年間の記録です。会社とは何なのか?人がいて、物を作り、そこには技術が存在し、お金が動き、理念・哲学があります。人と人とが互いに尊敬し合い、深い信頼関係で結ばれながら、同じ志を胸に、歴史を刻んでいく場所。主人公の青年が、答えを私に教えてくれたような気がしました。

県立川崎図書館には、「社史」がたくさんあります。一冊一冊思いの詰まったその社史も、ぜひ手に取ってご覧ください。

『会社を綴る人』 朱野帰子著 双葉社 2018年
資料番号:81714313 請求記号:335.48/55 OPAC検索

(県立川崎図書館:お膝のお皿が割れてます)