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本の表紙画像 『甦れ、ブッポウソウ』中村浩志著.jpg『甦れ、ブッポウソウ』 中村浩志著 山と渓谷社 2004年 資料番号:81174245 請求記号:488.9/1 OPAC検索

ある日、鳥好きの母が「ブッポウソウが見たい」としきりに話していました。「はてブッポウソウとは何のことだろう」と思い、私は好奇心でこの本を手に取りました。

ブッポウソウとは表紙に描かれているようにとても色鮮やかな鳥です。日本には5月はじめに渡来し、冬には東南アジアの島々に渡ります。人によっては「ブッポウソウ」という名前を、コノハズクの鳴き声と誤って付けられた、という話で知っている方もいるかもしれませんね。 本書は著者である中村浩志氏と研究室の生徒であった田畑君による調査をはじめ、コノハズクと取り違えられた謎、各地の生息の現状・これからの課題について書かれています。今回はその内容を少しご紹介しようと思います。

学生の頃からブッポウソウに憧れていた著者は、研究室の生徒の田畑君がブッポウソウを調べていて、その雛らしきものを拾ったということで、彼とともに繁殖地である長野県栄町でブッポウソウの生態について調査に乗り出します。ブッポウソウの餌の大半は昆虫類なのですが、彼らはその中に貝殻や小石のほかに、瀬戸物のかけら・アルミやプラスチック片(「奇妙な物」)などが混ざっていることを発見します。調査をさらに続けると、この「奇妙な物」は鳥の砂のうで碾臼(ひきうす)としての役割を果たしていたことが判明します。そして、このことについて2人は連名で「なぜ、ブッポウソウは巣に奇妙な物を運ぶのか」という英語論文を発表しました。また、自ら巣穴が掘れないこの鳥のために、彼らは調査中に巣箱を作り、住む場所を作りました。同じような活動は他の生息地でも行われているそうです。

なぜ、彼らがここまでして調査を行うのか。それはこの鳥の生息地が減少していることにありました。森に住むこの美しい鳥は、私たち人間が森を減らした影響で住処を追われてしまい、環境の変化に応じて貝殻や小石の代わりに缶のプルリングや瀬戸物の欠片などの危険物を碾臼として利用し、それが原因で雛が亡くなって、減少の一途を歩んでしまっているのではないか、と著者は述べています。この悲しい事実は鳥だけでなく私たちの身近にいる他の生物にも言えるでしょう。

著者は"一亜種の存在の重み"という章で、もし日本のブッポウソウが絶滅したのならば、その時は外国の同種を見に行けばよい、持ってくればよいという考え方に対して「(前略)姿・形が似ていても、日本人と共存してきた歴史を持ち、日本文化の一部となった鳥ではありません。」と述べています。私はこの文章を読んで、ふと幼い頃に日本のトキが絶滅したことを新聞で目にしたこと、その後中国から貰い受けたトキの人工繁殖が成功した出来事を思い出しました。人工繁殖できたことはとても嬉しいのに、"日本のトキ"が絶滅して、存在しないことに少なからずショックを受けていたからかもしれません。

ブッポウソウという鳥が懸命に生きていること、そして生き物のかけがえのない命や自然を私たちがどう守り・共存していくべきなのか、本書を手に取って少しでも考えていただけたらと思います。

(県立川崎図書館:生き物と自然は有限)