文化人類学とアフリカ研究を専門とする小川さやか氏が、香港におけるタンザニア人の自称チョンキンマンション(重慶大厦)のボス、カラマとそのコミュニティの日常を書いたエッセイです。 著者は過去にタンザニアで零細商人の商習慣や商実践について研究していました。その後、香港と中国本土にさまざまな商品を仕入れに渡航するアフリカ系商人たちの交易活動に関心を持ったそうです。
タイトルにあるチョンキンマンションは香港にある、世界中のバックパッカーに知られた安宿が多くあり、「アフリカをはじめ南アジア、中東、中南米等、世界各地から零細な交易人や難民や、亡命者などが集まる」ところです。副題の「アングラ経済の人類学」が示す通り彼らの仕事とその仕組みを、自称チョンキンマンションのボスであるタンザニア人のカラマとそのコミュニティに集まる面々とともに活動をして、解き明かしてくれます。
ボスのカラマ自身が難民であるように、コミュニティの人びとも不安定な身であることが多い中、必要に迫られてではありますが、「タンザニア香港組合」というセーフティネットができ、緩く繋がっている様子が「ついで」をキーワードに紹介されています。
彼らの商売では、通称「TRUST」と呼ばれるFacebookやInstagramなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)や電子マネーを取入れた仕組みを利用しています。「個々のブローカーと商品をマッチングさせ、かつ顧客や仕入れ先の業者の都合に左右されず」ビジネスを回せるシステムです。香港に居ながら本国の顧客とやり取りし、一方では同業者で情報を共有します。SNSを利用しているため誰にでも商売に関わる機会があり、こちらもセーフティネットとなっています。
私自身は経済に疎いのですが、じっくりと丁寧な解説を読み進め彼らのシステムを理解することができました。彼らが不安定な身であることから頼りない印象を持ってしまいがちですが、しなやかな発想で逞しく生きていることが伝わってきます。
ボスのカラマがなぜ、自分たちの香港での暮らしぶりを著者に教えたかを語る言葉に不意をつかれました。ステレオタイプに頼らず自分自身で異文化を理解することの大切さを感じました。
『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』 小川さやか著 春秋社 2019年
資料番号:23094337 請求記号:334.42/156 OPAC検索
(県立図書館:マカロンロン)
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