2020年9月11日(金曜日)、数カ月ぶりに県立図書館の展示室に明かりがつきました。 利用者の皆様には、新型コロナウイルス感染症拡大予防対策にご協力いただき、御不便をおかけしておりましたが、少しずつ図書館業務も戻りつつあります。
今回の展示は、オリンピックと海の競技をからめて行う予定でしたが、オリンピックの延期もあり、手で海の水をすくうように、神奈川の海にまつわる身近な事柄について取り上げる展示を企画しました。
展示の準備中(2020年5月~9月)は、新型コロナウイルス感染症についてさまざまな情報が飛び交い、自粛ムードと相まってモヤモヤする日々が続いていました。明治時代に神奈川の海沿いに建設されたサナトリウムについて調べているうちに、現在の状況と重なるような事例があり、モヤモヤが少し晴れたような気がしました。
近代化を進めた明治時代、工業の発展とともに結核が蔓延し始めていました。 「日本近代医学の父」と呼ばれたドイツ人医師エルウィン・フォン・ベルツは、1876年(明治9年)、東京医学校(現東京大学医学部)講師として招かれ、日本の公衆衛生の向上に尽力します。彼は転地療法(住み慣れた土地から離れた環境に身を置き、療養する治療方法の一種。治療方法が解明されていない病気や風土病などの治療に用いられた)を提唱し、自らも葉山に別荘を建てました。当時不治の病とされていた結核患者にとって、ベルツの提唱する療養法は一筋の光明となりました。気候が温暖で、東海道線と横須賀線の開通によって東京から便利に往き来できるようになった湘南地方の海岸には、全国から患者が集まり始め、結果として地域に結核が蔓延してしまいます。
やがて、海洋治療所すなわちサナトリウムと呼ばれる西洋式の療養所が次々と開院することになり、別荘と保養所からなる海岸景観は、このような経緯を経て生まれました。
神奈川県の海が治療の一環となり、結核患者の心の拠り所となった歴史には、これからの新生活においても学ぶことが多いのではないかと感じました。
展示は「なぜ、神奈川県の海は豊かな海洋資源にめぐまれているのか」から始まり、神奈川の海を描いた美しい絵図、海洋資源にまつわるプロジェクト、神奈川の海が舞台になった文学作品、サナトリウム、そしてこれから先の海を守るための取組みなどをパネルと関連資料でご紹介しています。会期は11月11日(水曜日)までです。
現在図書館では、手指の消毒、検温、換気を徹底し、新型コロナウイルス感染症拡大予防対策を行っています。10月11日(日曜日)からは資料の表面に付いた雑菌を消毒する除菌機も導入しました。 安心して図書館へご来館いただき、読書の秋を満喫してください。
(県立図書館:展示担当)