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本の表紙画像(『情に生きる日本人』中西進著).jpg情とは、人情。人情とは、大和言葉でいう「なさけ」です。著者は、序文の中で、インドに起こり、中国を経由し、日本に達して終わっているアジア文化の特色を、インドの想像力、中国の論理力、日本の感傷力と表現します。そして、後者は前者の影響を承け、取捨して力を溜めたものとしつつも、日本の文化力は大きく情に傾いていると述べます。また、歌舞伎を例にあげて、日本人が人情を「時代や現実味を二の次にして大事にしているもの」だとしています。

「自然」、「生活」、「思想」、「藝術」と章立てされた本書は、さまざまな切り口から日本人の情を説き明かしていきます。生活の章では、節句や衣装、ひも、家紋などを取り上げていて、中でも「日本人の行動美学」では、「もてなし」を取り上げ、もてなすということは、「他人の取扱いを十分に尽くすこと」であり、「愛をこめて人間らしくふるまえばよく、そこには茶菓のような物質的なものはあってもなくてもいいもの」だとします。

思想の章の一例には「供養」があげられています。日本では人に対してだけでなく、異類を巻き込んで供養がおこなわれているとし、(餓鬼供養、虫供養、針供養など)万物精霊への慰撫、これらも「情感の日本のしわざ」としています。

藝術の章では、滅亡によせる日本人の独特な情感の例として、能の「船弁慶」や『平家物語』をあげます。また、ジョン・ダワーが第二次世界大戦における敗北を、日本人が「抱きしめ」たと表現していることをしめして、「悲憤慷慨ではなく、まなこを閉じて瞑想する」・・・「抱きしめる」、この限りない感傷力も日本人の情の一つであると述べています。

もてなしにしろ、供養にしろ、ふだん何気なくやり過ごしている言葉でありおこないです。また、伝統や文化という言葉も、莫としたイメージで、自分の言葉に置き換えて説明するのが難しいものですが、本書を読んで、あらためて、日本の伝統や文化、そして日本人の考え方やふるまいが、情とは切り離せないものであることに気づかされました。

『情に生きる日本人』 中西進著 ウェッジ 2013年
資料番号:22676696 請求記号:210.04/430 OPAC検索

(県立図書館:つぶ餡派)