小説のようなタイトルに惹かれる方もいらっしゃるでしょう。ですが、副題は「「共感」から考えるヒトの進化」とあり、当館の人類学の棚に置かれている本です。
私が著者を知ったのは学生時代でした。専攻していた心理学に「比較行動学」という科目があり、それは手のひらに乗るサイズのマーモセットからゴリラまで、いろいろな種類のサルの行動生態を学ぶ学問でした。その科目の先生がアフリカでチンパンジーの研究をされていた時の映像を見せてもらったのですが、その中に著者が映っていたのです。樹上のチンパンジーを熱心に観察するこの女性はいったいどんな人なのだろう?と強く印象に残りました。
著者の専門は動物の行動と進化の研究です。もともと人類学の出身で、人類にもっとも近縁な動物であるチンパンジーの研究をし、その後、シカ、ヒツジ、クジャク等、人類とは遠い動物の研究を経て、ヒトの行動と心理を研究しています。
この本は、ヒトについて考えるようになった著者が2006年から2017年にかけて学会誌や雑誌等に書いた文章に書き下ろしを加え、書籍化されたものです。「なぜ「若く」見られたいのだろう?」といった個人的に気になる研究もあるのですが、今回は副題に沿った内容を取り上げましょう。
チンパンジーと人類はおよそ600万年前に分岐して別の進化の道をたどりました。「チンパンジーは強度な訓練の結果、300語以上の単語を覚えるが、彼らが自分から発する発話のほとんどは要求である」「チンパンジーはおせっかいをしない」のだそうです。一方、ヒトは、たとえばお母さんと赤ちゃんがイヌを見て「わんわん」「そうね、わんわんね」「わんわん」と言う、単純な言語コミュニケーションができます。チンパンジーはこのようなことはしません。心の状態の共有があれば意図が共有でき、共通の目的のために共同作業ができるようになる、これはおおいなる進歩だそうです。そして、心の共有が言語コミュニケーションというシステムの根源にあるとし、それが人類の経てきた過酷な環境への適応に非常に大きな役割を果たしたであろう、と書いています。
著者は地球環境問題にも生態学者の立場から関わってきました。あと10年後にどんな世界になっているか、そこにどんな貢献ができるかこの先も努力を続けていきたい、と結んでいます。
「人生は楽しいし、世界は美しくて不思議に満ちているので、それを探究するために、ずっと生きていたいと思っている(本文より)」。図書館を訪れてくださる皆様も、好奇心にあふれ生き生きとした人生を送られますようにと願っております。
『世界は美しくて不思議に満ちている 「共感」から考えるヒトの進化』 長谷川眞理子著 青土社 2018年
資料番号:23055833 請求記号:469/175 OPAC検索
(県立図書館:将来の夢はコンピューターおばあちゃん)
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