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本の表紙画像(『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか』竹内美紀著)今もなお読み継がれている『クマのプーさん』や『ピーターラビットのおはなし』、『ちいさいおうち』。慣れ親しんだ絵本を思い浮かべる方もいれば、実際に読んだことはないけれど、タイトルは知っているという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
本書はこれらの翻訳者である石井桃子の翻訳手法について、数多くの記録や記事、当時を知る人々へのインタビューをもとに石井桃子を洞察しつつ、具体的な訳例を他訳と比較分析することから「石井桃子の翻訳の特徴を明らかにし、子どもの本の翻訳文体における声の重要性を指摘することを目的」として書かれた研究書です。

「子どもの読みは大人の読みと違う」「子どもの文学において声に出して読まれたものを耳を通して聞くことは重要」と考えた石井桃子の翻訳は、言葉の置き換えではなくイメージを明確に伝えることを念頭においたものでした。子どもの読者に届く声で語ることが大切だと考えた石井桃子が、「子どもの読み」を現実の子どもから学ぶために、自宅1階に「かつら文庫」を開設したのはよく知られた話です。そんな石井桃子にも大幅な改訳をする時期がきます。その翻訳姿勢が子ども読者を重視するだけではなく、作品の声や作者の意図にも配慮したものへと変化していく過程も、新旧の訳文を比較しながら丁寧に記されています。「声を訳す」ということは、どのようなことだと思いますか?

本書を別の角度から読んでみると、石井桃子の評伝のような側面も兼ね備えていると思います。
2008年4月に101歳で生涯を閉じた石井桃子は「作品の分析を非常に嫌った。無惨に切り刻まれる思いがすると怒った。子どもの本は親や先生がそのまま子どもに読んでやればよいというのが終始一貫した考えだった」そうです。晩年くり返し語ったという「おとなになってから、あなたを支えてくれるのは、子ども時代の『あなた』です」という言葉に、石井桃子の子どもへの深い愛情を感じずにはいられません。

『石井桃子の翻訳はなぜ子どもをひきつけるのか 「声を訳す」文体の秘密』 竹内美紀著 ミネルヴァ書房 2014年
資料番号:22739510 請求記号:909.02/19 OPAC

(県立図書館:ちゃんばらごっこ)