職場からの帰り道、紫色が視界を横切りました。歩道脇のコンクリート壁に、ハナダイコンが群生しているのです。風に揺れる花々に癒されました。しかしなぜこんな固い所に?しかも何だか規則的に群生しているような...?立ち止まってよくよく見ると、壁の所々に排水口があり、そこからハナダイコンが生えているのが分かりました。狭い所で何て健気に生きているのだろう、と私は思いました。
しかし、この本の著者は言います。他の植物と競争することなく、自分のペースで成長していればよいスキマという環境こそは植物にとってじつに快適な空間なのだと。著者の塚谷裕一先生は、東京大学大学院理学系研究科教授で、専門は植物学です。その豊富なご経験や知識でもって、私たち素人にも分かりやすいように、度々マスメディアに登場して植物の多様性について語ってくださいます。本書は、植物への愛ゆえに、日々の生活の中で目に留まったスキマに生きる植物達を先生が自ら撮影し、その生態や分類、エピソード等を簡潔に書き表した、植物学への案内状です。
ページを開き読み進めるうちに、植物について知ることが楽しくなってきます。たとえば、タンポポの花一輪と思っていたものが実は舌状花と筒状花の集合体であること。アスファルトの裂け目から生えているボウボウの草が実はアスパラガスであることに驚き、そう言えばアスパラガスの葉を見たことがない自分に気づくこと。普段自分が見落とし、気づかず通り過ぎている物事の何と多いことか。私は自宅周辺の"スキマ植物"を自分の目で確かめるべく外に出かけました。まずはセイヨウタンポポ、ナズナ、カタバミ。そう言えばカタバミは園芸種として海外から輸入され、丈夫で繁殖力が強いため"各自が勝手にスキマを見つけて暮らす"ようになったのだとか。本書に出ていたコバノセンダングサ、スズメノカタビラ等、私にとって雑草という一括りだったものに、それぞれの名前が付き、じっと観察せずにはいられません。
皆様もこの本を読んで、日々の散歩に"スキマ植物探し"を取り入れてみませんか。
『スキマの植物の世界 カラー版』 塚谷裕一著 中公新書 2015年
資料番号:22802938 請求記号:470/116 OPAC検索
(県立図書館:スキマ好き)
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過去、当ブログで紹介したオススメ本と、本記事の紹介本を含む新規のオススメ本を、司書の図書紹介コメントとともに県立図書館本館1階閲覧室で展示しています。
【開催期間(予定)】
○第1期:6月9日(火曜日)から7月8日(水曜日)
(2010年から2014年のブログ記事から紹介)
○第2期:7月10日(金曜日)から9月9日(水曜日)
(2015年から2020年のブログ記事から紹介)
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