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本の表紙画像(『ヘンな日本美術史』山口晃著)画家の山口晃さんが「やあ、いろんな絵があって面白いぞ、先達は凄いなぁ、ようし自分も頑張ろう」と平安から明治の初めころまでの画家、絵画について述べています。図版と山口さんの挿絵がついています。

日本の古い絵、なかでも「鳥獣戯画」は見たことがあると思います。ウサギとカエルが相撲をとったりする、あれです。これをのっけから"好きじゃなかった"と言うのです。達者な絵であると認めつつ、出来すぎで手本のようだと。ところが、実物を見て変わります。墨で描かれた線の美しさ、印刷されたものではわからなかった透明度と墨一色なのに色の奥行さえ感じ、驚くのです。ウサギとカエルの甲巻が有名ですが、続く乙・丙・丁巻は製作時期も作者も違うのがわかっています。前巻のキャラクターに応答する形で次の絵巻が進み、各巻のキャラが相互作用して四巻まとめて見て初めて面白い絵巻だとわかると述べています。

逆に実物を見てがっかりしたのが「伝源頼朝像」。"つまらない。こんなのをずっと見たいと思っていたのか"と悲しい気持ちになったと言っています。これには理由があるわけで、それを絵のサイズ感、修復、当初の絵を見られる環境などのさまざまな観点から述べていきます。レオナルド・ダ・ヴィンチや長谷川等伯などたくさんの画家の絵を例としてあげていますが、こちらは図版がついていないので、少しわかりづらいかもしれません(スマートフォンなどで検索しながら読むと、よくわかって面白いです)。
「雪舟」は画聖とも呼ばれるくらい日本の絵に多大な影響を与えた人物として一章をあて、"こけつまろびつ"描き続けた人と評し、その凄さを語っています。

そのほか"デッサンなんかクソくらえ"と言わんばかりの絵の数々を紹介し、仕上げすぎずに描くことで全体が浮き上がって見え、それが日本の古い絵の特長であるとしています。ん?これって印象派とおんなじ、と思ったら、やはり山口さんは言っています。印象派やキュビスムがやっていることは、日本人は、というより人間は元々そういう見方をするものだと。ところが西洋絵画に出会いデッサンや遠近法を知ってしまったが故に、近代日本絵画は苦悩する、それを「一度自転車に乗れるようになると、乗り方を忘れることはできない」と表現しています。

研究者や評論家とは違う観点で語られ、ユーモアもたっぷり。日本の絵画になじみがなかった方にも、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。

『ヘンな日本美術史』 山口晃著 祥伝社 2012年
資料番号:22637102 請求番号:721.02/135 OPAC検索

(県立図書館:らふぁえろ)