生きるために食べる、そして排泄する。これは古代から変わらない人間の営みです。本書は縄文時代から戦国時代までのトイレ事情をこれまでの研究成果や文献をもとにわかりやすく解説した「トイレ考古学」の入門書です。
口絵カラー写真で、男性がしゃがんで指差す先には楕円形の窪みがあり、つややかな黒い土が堆積しています。それは1300年前の藤原京のトイレに残されたウンチで、そこから排便後に使われた木切れ「クソベラ」とともに、当時の人々が食した食べ物のカスや種、そして寄生虫の卵が数多く発見されました。1992年、藤原京跡の発掘調査の現場担当だった著者は、そこで細長い奇妙な穴を見て、直感でトイレだと考えました。それまでは、クソベラ、ウリの種、ハエの蛹、この3点がトイレ遺構判別の「三種の神器」でした。さらに、堆積した土壌を分析した結果、寄生虫の卵を発見し、トイレ遺構であると決定づけられました。この藤原京跡のトイレ遺構発見はトイレ考古学転換のきっかけとなりました。トイレ考古学の歴史は比較的新しく、日本で最初にトイレ遺構と認められたのは、1980年の福井県一乗谷朝倉氏遺跡でした。
1990年平城京跡で見つかった水洗式トイレは、後年藤原京跡でも確認され、古代には水洗トイレがあったことが認められました。古代からあった水洗トイレがなぜ発達しなかったのか。12世紀後半以降、人糞を肥料として使用するようになったことでリサイクルシステムができあがり、再び水洗トイレが主流となるのは、化学肥料が使われるようになった後の時代です。
本書では藤原京のトイレ遺構のほか、縄文時代の貝塚に残る糞石から、平安、鎌倉、戦国時代まで、各地の遺跡をめぐり、その時代におけるトイレ事情について考察をしています。当時の絵画や文献なども参考に解説し、トイレ復元図も掲載されており、わかりやすく興味をもって読むことができます。
『水洗トイレは古代にもあった トイレ考古学入門』黒崎直著 吉川弘文館 2009年
資料番号:22370753 請求記号:210.3/1073 OPAC検索
(県立図書館:Kurihara Tamaki)
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