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本の表紙画像(『水神 上巻下巻』帚木蓬生著)物語にどっぶり浸かって読書をしたい方にオススメの本です。上下2冊のこの本は江戸時代初期、島原の乱後の筑後国久留米藩における筑後川での堰造りをめぐる物語です。主な登場人物は、水汲みの打桶を生業とする元助、その主人の庄屋山下助左衛門、そして下奉行菊竹源三衛門です。

元助の住む高田村は筑後川が流れているものの、農地より低いところに川があるため元助と相棒の伊八は、二人組になって綱を付けた桶で「オイッサ、エットナ。オイッサ、エットナ。」の掛け声で毎日村の田んぼに水を汲み上げています。それでも日照りや洪水などで、年貢を納めるのがやっとで自分たちは白米をほとんど口にすることができない状態です。近隣の村々も同様でした。

このような状況のもと、庄屋助左衛門を中心とする五人の庄屋(五庄屋)が村々に水が行き渡り毎年安定した耕作ができるように筑後川の堰造りの嘆願書を藩に提出します。さまざまな利害が絡んで、流域の村々から反対の声も上がりますが、普請は下奉行菊竹の支えと五庄屋が費用と責任を負担するということで実現します。

堰の工事では、竹杭や石が船に乗せられ棟梁の合図で沈められる迫力の場面、資材の大石が牛に曳かれて田んぼの中の道をはるばるいくつかの村を超えて運び込まれる場面などが生き生きと描かれています。

物語を通して、久留米藩の広大な土地を舞台に、元助が食料を探しに山に入る様子、元助と主人の助左衛門が隣村の庄屋を訪れる道すがらの様子や、下奉行菊竹が村々の農地を馬で回る様子などに、広々とした風景が浮かび話声や馬の駆ける音が聞こえてきそうです。ちなみにこの作品は第29回新田次郎文学賞を受けています。

農民、庄屋、役人、それぞれの立場から日々の仕事に励み、相手を思いやり、大変な状況を何とか良くしようという心意気が伝わってきます。工事の行方はタイトル『水神』の由来とともにどうぞ本編でお楽しみください。

『水神 上』『水神 下』 帚木蓬生著 新潮社 2009年
資料番号:22364871、22364889 請求記号:913.6/3417 1 OPAC検索 、913.6/3417 2 OPAC検索

(県立図書館:マカロンロン)

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【開催期間(予定)】
○第1期:6月9日(火曜日)から7月8日(水曜日)
(2010年から2014年のブログ記事から紹介)
○第2期:7月10日(金曜日)から9月9日(水曜日)
(2015年から2020年のブログ記事から紹介)