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本の表紙画像(『猫語の教科書』ポール・ギャリコ著)「.........で、結局のところ、犬と猫、どちらのほうが可愛いの?」

この問いは、長年に渡り議論し尽くされ、おそらく永遠に答えは出ないであろう問いだと思うのですが、『猫語の教科書』は、読むと、猫の持つしたたかさや小悪魔性が浮き彫りになり、それまで猫派だった人がたちまち犬派に寝返ってしまう危険性を孕んだ本です。何故かというとこの本は、人間を魅了し、その家庭を乗っ取ることによって生き延びた一匹の雌猫が、後続の猫たちに向けてそのテクニックを余すところなく語るという内容であり、この本を読んでしまうと、我々人間が支配しているはずのこの世界は実はそうではないのではないか、深い部分において我々は支配される側なのではないか、と思わされてしまうからなのです。

語り手である雌猫は人間の性質をよく理解しており、魅力的な鳴き声やしぐさで人間を夢中にさせる方法や、寝床や食事などの生活環境を思いどおりに整える術を知り尽しています。たとえば、のどをゴロゴロ鳴らすタイミングをはじめ、「声を出すニャーオ」と「出さないニャーオ」の使い分け、美味しい食べ物を用意させるにはどうするか、気に入った椅子を自分専用にする方法、などなど。しかしこの雌猫は、けっして人間を馬鹿にしているわけではありません。人間が猫に何を求めるかを的確に把握しているだけなのです。

猫を実際に飼っている方は、この本を読み終えた後おそらくこう思うでしょう。
「まさか、うちの猫も...?」

猫は人間にとって"不実な裏切り者"でしょうか?「それでも構わない。こんなに可愛いのだから、むしろ猫に振り回されたい!」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。それこそが、飼い主に忠実な犬とはまた違う猫の魅力のなせる技だと思います。

『猫語の教科書』 ポール・ギャリコ著 筑摩書房 1995年
資料番号:21385026 請求番号:645.7/4 OPAC検索

(県立図書館 私は犬派)