今回ご紹介する「イソップ寓話」。みなさま人生の中で一度は、それも多分ご幼少のころに出会っているのではないでしょうか。あるいは、それとは認識せずとも、日常の中でさまざまなお話に触れているはずです。なぜなら、それほどまでに深く日本文化に浸透しているからです。たとえば「ウサギとカメ」、「おおかみ少年」、「北風と太陽」などがあげられます。出典を気にすることもなく、文脈の中で例えに利用していたあの話、この話。実は「イソップ寓話」が原典だったということもあります。なぜこんなにもなじみ深いのでしょうか。本編を読みつつ、そんなふうに感じていたところ、訳者の解説で丁寧に回答をいただいた思いになりました。
巻末の解説を少々ひも解きますと、「イソップ寓話」が日本に初めて登場したのは桃山時代でした。しかも、西洋文学の翻訳書としては日本初です。そして、天正遣欧少年使節が日本に持ち帰ったグーテンベルク式印刷機で印刷されたそうです!こんなにも昔に、当時の最新技術で大切に作られ日本人に手渡された本。そこからしっかりと日本に根付いていったのでしょう。
"イソップ" は "アイソポス"というギリシャ語の英語読みで、紀元前6世紀ごろに実在したと考えられています。ヘロドトスの『歴史』に存在が記録されてはいますが、謎につつまれた人物です。寓話も、本人の残した原典は存在せず、後の人々が編纂し集成したものが伝わってきました。古代ギリシャの弁論家のあいだで、演説の引用のための種本として愛用されていたといいます。空想してみると、古代ギリシャのとある広場で「アイソポスの話にあるように、猫の首に鈴をつけるのは名案だが......」と得意げに話す弁論家が目に浮かんできます。ひねりのきいた演説が評判を呼んだのでしょう、プラトンやアリストテレスの目にもとまり、哲学者たちの作品にイソップに触れた記述が残されているといいます。そんな妙味あふれるお話に彩りを添えているのは、イギリスの挿絵画家 アーサー・ラッカムです。古代ギリシャ人のお話に近代の挿絵界の巨匠ラッカムが絵をつけ、ページをめくるとまるで一幅の美術品のような景色が目の前に広がります。
人類が21世紀に足を踏み入れ、はや20年が経とうとしています。AIの活用も膾炙(かいしゃ)されるそんな時代に2500年以上も昔の古代ギリシャ人の教訓や知恵、戒めが受け入れられるのでしょうか。もちろん是です。イソップの寓話は今もまったく色あせず現代人の心に届いてきます。「イソップ寓話」の世界は大変に奥深いので、折にふれその扉を開き、訪れたいと思わされます。
『新編イソップ寓話』 川名澄訳 アーサー・ラッカム絵 風媒社 2014年 資料番号:22738942 請求記号:991.7/3 OPAC検索
(県立図書館:金と銀の斧をください)
公開
私のオススメ本