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本の表紙画像(『腎臓のはなし』坂井建雄著)自分の身体について、私たちはどのくらいのことを知っているのでしょう。普段の生活の中で「あ、今、心臓が全身に血液を送っているな」とか「お、肺で酸素と二酸化炭素を交換しているぞ」などと感じる機会はほとんどないと思います。しかし、意識しなくても当たり前のように動く身体は、無数の複雑な仕組みで成り立っており、そのひとつひとつを紐解くとおもしろい発見がたくさんあります。本書はその中でも「腎臓」に焦点を当て、機能、進化や研究の歴史、健康との関連性について解説した資料です。

腎臓と聞いてまず思い浮かべるのは、楕円の中央部分が少しへこんだ、そら豆のような独特の形ではないでしょうか。肝臓のやや下方、背骨の両側に位置する一対の臓器で、ひとつの重さはわずか130グラムです。この小さな臓器が、尿を作り身体の内部環境を一定に保つ、という重要な役割を一手に引き受けています。
腎臓の中には糸球体と、尿細管と呼ばれる器官があります。まずは、糸球体が血液をろ過して原尿を作ります。糸球体は毛細血管が球状に絡み合ってできたもので、直径は約0.2ミリメートルです。これが人間の腎臓の中に200万個ほど配置されています。3層のフィルター構造をしており、血液はここを通ってろ過されます。驚くべきはこの量で、毎分140ミリリットル、一日あたり約200リットルの尿が作られるそうです。そして、この大量の尿の99パーセント以上を再吸収しているのが尿細管です。糸球体から尿細管に流し込まれた尿の大半は、そこに含まれるブドウ糖やアミノ酸などの栄養素を取り込むために、再び身体に吸収されます。吸収されなかった尿だけが浸透圧を利用して濃縮され、最終的に排出される尿の量は1日あたりおよそ1.5リットルになります。

このように、目立たないけれど生命維持に必要不可欠なはたらきをする腎臓について、著者は「腎臓という臓器が備える叡智なくして、我々の生命は存続することができない。それにもかかわらず腎臓は多くを語らない。腎臓は、そんな賢明で寡黙な哲学者の姿を思い起こさせる。」と述べています。読後は身体の仕組みに感動するのはもちろん、もう少しお酒は控えて、健康に気をつけて生活しようかな...と思える本です。

『腎臓のはなし』 坂井建雄著 中央公論新社 2013年
資料番号:22671085 請求記号:491.34/9 OPAC検索

(県立図書館:猫になりたい)