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『ナチスから図書館を守った人たち』 表紙画像『ナチスから図書館を守った人たち』 デイヴィッド・E・フィッシュマン著 羽田詩津子訳 原書房 2019年 資料番号:23057763 請求番号:238.84/5 OPAC

あなたは、生か死か、絶体絶命のときに、1つだけ持ち出していいと言われたとしたら、何を持っていきますか。お金ですか、食糧ですか、衣類ですか。

この本に出てくるユダヤの人々が持ち出した物は、記録した紙や本でした。

本書は、ナチス・ドイツに占領されたリトアニアの首都ヴィルナ(現在のヴィリニュス)でナチスに迫害されたユダヤ人たちが、ユダヤ民族の文化を守り、次世代に継承していこうとして命懸けで奮闘する姿を描いたノンフィクションです。

聖書によると、神が最初のユダヤ人アブラハムをお創りになったとき、「人生の旅のために彼にふたつの贈り物をした。ひとつは本で、もうひとつは剣だった。アブラハムは本を読むことにすっかり魅了され、手から剣が滑り落ちたことにも気づかなかった。その瞬間から、ユダヤ人は本を好む民族になった。」とあります。本が好きといっても、生命の危険に遭遇しながらも、本を守ろうとしたのは、強い使命感があったからでしょうか。

ゲットー図書館はただ開館しているだけでなく、人気が高かったといえます。大量の検挙が行われると、図書の貸出し数が急上昇します。一日390冊くらいが貸出されたそうです。読書は、現実に対処し、平静さをとりもどす手段でした。

主に読まれた本は、戦争文学でした。トルストイの『戦争と平和』は、開館した年に86回貸出されたとあります。また、レマルクの『西部戦線異状なし』やアルメニア人の大虐殺がおこなわれたトルコが舞台のフランツ・ウェルフェルの『モーセ山の40日』がよく読まれました。

図書館が開館して15カ月で1万冊の本の貸出達成のイベントが開催されたということは、読書がかなり盛んであったことの表れです。ユダヤ人にとって、この当時の読書は、緊張した神経を和らげ、心理的な安全弁として働き、精神的にも肉体的にも崩壊を防ぐことができたと言えます。さらに、架空の英雄たちを自分に重ねあわせることで、気持ちを高揚させ、生き生きと暮らすことにもつながりました。

本とは、図書館とは、自分にとってどんな意味があるのかをあらためて考えさせられる著書です。一読をして、本を守るために闘った人々の苦労の歴史を知っていただければと思います。

(県立図書館員:青空をはばたきたい)