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「私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない」表紙画像「私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない」 イ・ミンギョン著 すんみ、小山内園子訳 タバブックス 2018年 資料番号:23070956 請求記号:367.1/276 OPAC

2016年5月の韓国。1人の男性が江南駅近くにある女子トイレに忍び込み、無作為に選んだ女性を殺害する事件が起こりました。犯人は「女たちが自分を無視してきたから」だと動機を供述し、『女性嫌悪(ミソジニー)』による犯行として社会問題となりました。

この「江南駅殺人事件」が起きてから、「もうそれまでと同じようには生きることができなくなりました。」と語る著者、イ・ミンギョン氏は、ニュースで事件を知ったその日のうちにこの本を書こうと決め、フェイスブックで編集者、校正者を募り、クラウドファンディングで資金を集めたそうです。

恥ずかしながら、私はこの事件を知りませんでした。本書を読了後、過去の関連ニュースを遡って調べているうちに、韓国女性の結束力、社会に訴える行動力に圧倒され、近年韓国のフェミニズム文学が大きく取り上げられ、出版が急増している理由がわかったような気がしました。

韓国ではこの事件をきっかけに、女性に対する性差別の問題が可視化され、フェミニズムが1人1人の経験に即した切実で身近な声になったと言われています。

あなたは「性別による不公平はあるし、なくなるべき」と考えますか?それとも「性別による不平等はあるけれど、なくなってはいけない。またはどうでもいい。」ですか?

読者は最初にどちらかのスタンスを選択します。後者の方にこの本は必要ありません。本書は、女性差別が生まれた背景を踏まえ、差別はないと主張する人に対してどのような態度で接すればよいか、具体的に提言しています。

「『とっさの旅行会話ベスト100』みたいなもの」と著者が紹介するように、タイプ別、状況別の会話例をまとめた「練習コーナー」もあります。上手く言い返せなかったことで自分を責め、疲弊している人に、実用言語を身に着けて自分の心を守ろうと訴えます。こう書くと、臨戦態勢を強要されるようで窮屈に感じるかもしれませんが、けっしてそうではなく、「適当な言葉で誤魔化したことが悔しくて、ふて寝するなんてつまらなくない?」と提案してくれた友人の横で、頷きながら会話しているような、頼もしい気持ちで読み進むことができます。

言葉の積み重なりが、いつか大きな変化につながるかもしれません。

(県立図書館:パッピンス食べたい)