『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』 村瀬秀信著 双葉社 2013年 資料番号:60619277 請求記号:K78.1/168 OPAC 『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』 村瀬秀信著 双葉社 2016年 資料番号:60679677 請求記号:K78.1/168A ※双葉文庫版 OPAC
1949年11月、山口県下関市において、あるプロ野球球団が生まれました。その球団は松竹ロビンスとの合併や大阪・川崎への本拠地移転を経て、1978年に横浜へとやってきました。その名は大洋ホエールズ。横浜へ移転した後は「横浜大洋ホエールズ」や「横浜ベイスターズ」への名称変更、親会社の変更を経て、現在は横浜DeNAベイスターズとして活動しています。
さて、大洋ホエールズ(横浜ベイスターズ)といえば"弱い"球団の代名詞的存在でした。2018年シーズン終了時点で、リーグ3位以上になった回数は17回。それに対し4位以下になった回数は52回で、そのうち最下位だった回数は23回という圧倒的な弱さでした。
そんなベイスターズが手にした数少ない栄光の1つが1998年のリーグ優勝・日本シリーズ制覇でした。前回のリーグ優勝・日本シリーズ制覇は1960年。38年ぶりの栄冠に選手もファンも酔いしれ、「ベイスターズの時代」が来るのではないかという期待を抱きました。しかしその絶頂は短く、その後も苦しい時代が続いていくことになります。
『4522敗の記憶』は弱小球団であったホエールズとベイスターズのわずかな喜びと多大なる悲哀を描いたノンフィクションです。著者の村瀬秀信氏は幼いころから球団のファンであり、そんな著者が多くの球団関係者への取材を行って書き上げたのがこの本です。タイトルの「4522敗」は球団創設から2012年シーズン終了までに積み重ねた敗戦の数です。この数字はプロ野球リーグ発足時(1936年)から存在する阪神タイガースの4514敗を上回る数字です。この時点までの勝利数が3593であることを考えると、いかにベイスターズが負け続けていたかがわかります。
本書には2012年シーズンまでの球団の歴史について書かれていますが、とくに「横浜ベイスターズ」時代(1993~2011年)の描写にページを割いています。この時代は、球団2度目のリーグ優勝・日本シリーズ制覇やマルハ(現マルハニチロ)からTBSへの球団の「身売り」、そして「暗黒」と評される長きにわたる低迷期が到来したこともあり、球団史の中でも絶頂とどん底が存在する重要な時代であると言えます。
刊行当時の現役選手やOB、球団社長といった球団関係者の証言をもとに当時の球団の状況が克明に描かれているも点も本書の魅力です。平松政次氏や遠藤一彦氏といった往年の名選手から「黄金期」を支えた谷繁元信氏、1994~2003年まで球団社長を務めた大堀隆氏など30名を超える球団関係者の証言をもとに個人の手で書かれた「球団史」は中々お目に掛かることは出来ないでしょう。
今の横浜DeNAベイスターズが存在するのは、多くの人々が積み重ねてきた歴史あってのものです。その歴史の一端をこの本を読むことで共有できます。野球が好きな人もそうでない人も、ぜひ「ホエールズ&ベイスターズ」の歴史に触れてください。
なお、双葉文庫版では単行本の内容に加えて2013~2015年シーズン終了までを描いた「文庫版最終章 234敗の追記」と2011年冬に読売ジャイアンツへ移籍した村田修一氏へのインタビューを中心とした「追記 村田修一が見ていた世界」が収録されています。こちらもご利用ください。
(県立図書館職員:入り江の鯨)