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『ドミトリーともきんす』高野文子著 中央公論社 2014年 資料番号:81624793 請求記号:402.1/37 OPAC(所蔵検索)

この文章を書いている時、ふと大学の物理化学の講義を思い出しました。

黒板に書かれている定理を解説している教授も、学生時代に私達と同じ定理について講義を受けていたのだろうと想像して、私はその定理や法則の普遍性を感じずにはいられませんでした。 教科書で学ぶ定理には、ある現象の発見、研究をした科学者がいるのです。今回はそんな科学者に関する本をご紹介したいと思います。





この本はある母娘がもし、学生寮をまかなっていたら...という空想のお話です。 学生寮「ドミトリーともきんす」には寮母のとも子さんと娘のきん子ちゃん、そして科学を学ぶ4人の寮生が生活しています。寮生は若き日の有名科学者達。彼らはのちにノーベル賞を授賞したりと、一度は名前を聞いたことのある人物たちです。寮生と母娘との日常生活が柔らかいタッチの漫画で描かれており、各短編の最後には、エピソードとなった彼らの当時の生活や著書の紹介と解説があります。 教科書に載っている偉大な科学者は、教授や博士と呼ばれ、どこか無機質で淡白なイメージを抱いていました。しかし、この本ではみんな学生で「○○君」と呼ばれ、エピソードから広がる学生たちの人間味あふれる特徴や素朴さに触れることができます。

この本を読む前は図書館に並ぶ本の背表紙に、彼らの名前があっても気づきませんでしたが、読後では不思議と目に入り、偉大な科学者を身近に感じられます。 作品の最後の章に詩が紹介されています。詩の作者は、作中に登場する物理学を研究している学生です。私は彼の詩から科学の、ひとつの専門にこだわらず、他の分野・学問にも通じ、展開される可能性の大きさに考えさせられました。

この本が何回読んでも新鮮で読みやすいのは、お話はもちろん、作者である高野文子さんのイラストにも魅力があるからだと思います。 小さな"不思議"から科学の世界に入り、夢中になって追いかけた彼らの探求が科学の礎となって、今の私たちに受け継がれていることを、当時の彼らはきっと思ってもみなかったでしょう。そして後世の私たちもその定理や法則を通じて何十年も前の彼らと繋がっている。

科学って不思議ですね。

(県立川崎図書館:5人目の寮生 とまと君)