『物語を忘れた外国語』黒田龍之助著 新潮社 2018年 資料番号:23005077 請求記号:807/162/18 OPAC(所蔵検索)
もし、隣の人が読んでいる本に知らない文字が並んでいたら、どう思いますか。 外国語、と聞いて思い浮かべるのは嫌な思い出でしょうか。それとも、楽しい思い出でしょうか。人によって好き嫌いが分かれるキーワードだと思いますが、外国語に魅力を感じ、自分の気に入った作品を読み続けて、一冊にまとめた本が『物語を忘れた外国語』です。 著者の黒田龍之介は、ロシア語の専門家で、NHKラジオのロシア語講座を担当していたこともあります。本書でも、他の著作でも、外国語が好きであると明言しています。専門のロシア語に加えて、英語やフランス語の作品も読み、また、その他の言語にも挑戦しているほどです。
冒頭で紹介されているエピソードはチェコ共和国での講演依頼を受けたときの話です。まず講演依頼を引き受け、その後、原稿を執筆するために、チェコ語の語彙を増やしながら、チェコ語で書かれた本を読むことに取り掛かったそうです。選んだ作品は、親しみがあった物語のチェコ語訳版(星新一の作品集)です。そして、講演までの3か月の間でチェコ人に「面白い」と言われる原稿が書きあがりました。 それほどまでに外国語が好きで、外国語学習に物語を選ぶ著者が綴った本書では、著者独自の視点で、外国語と物語について語っています。第4章の「細雪のウクライナ語?」では『細雪』(谷崎潤一郎著)に登場するロシア人の会話や振る舞いの描写から、ロシア語とウクライナ語の違いについて独自の分析をし、『細雪』のロシア語訳版との違いについて書いています。第7章の「モルバニア国へようこそ!」では、実際には存在しない言語が登場する作品をあげています。たとえば、英語のようで英語には使わない文字をつかう架空の言語が登場するテレビドラマ「スパイ大作戦」や、架空の国モルバニア国の言語が載っている旅行ガイドブック仕立ての本『Molvania』などです。他の章でも、物語そのものの紹介や感想、作中の外国語が関係する場面や、原作と翻訳の差異などについて述べています。翻訳作品については、日本語に翻訳されたものも、日本語から他の言語へ翻訳されたものも取り上げています。 どのページを開いても、著者独自の視点と読書経験に基づく話が展開しています。また、全体を通して、外国語学習の方法には物語が大事であることも伝えています。物語を選ぶ際には、原書だけではなく、読みやすいもの、親しみのある作品の外国語版を薦めています。そして、本書が学習者を救う一助になることへの願いを語っています。
(県立図書館職員:物語で潤いを)