『庭師が語るヴェルサイユ』 アラン・バラトン著 原書房 2014年 資料番号:22744635 請求記号:235.05/140 OPAC(所蔵検索)
フランス・ブルボン朝の最盛期を築いたルイ14世が、パリ郊外に造営した「ヴェルサイユ宮殿」。敷地面積は約1000ha。豪華絢爛な装飾と美しい庭園は1979年世界文化遺産に登録されました。 その壮大なヴェルサイユの庭園がこんなにも人間味溢れる場所だったとは驚きでした。そう感じられたのは、学者でも好事家でもなく「庭師」が語るヴェルサイユだったからかもしれません。ふとしたことから庭園の庭師見習いとなり、以来その道一筋で歩んできた著者が、庭師の視点からさまざまなエピソードを語ります。幾多の歴史を刻んできたヴェルサイユ庭園ならではのエピソードは波乱に富んでおり、最後まで読者を飽きさせません。
幼い頃家庭環境にあまり恵まれなかった著者の唯一の癒しの場が、祖父の造る庭園でした。庭師に憧れていたわけではないけれど、庭師になる土台はそこにありました。 庭園の歴史、庭園を美しく維持するための努力、尊敬する先人の話など、どの章にも四季折々の庭園の様子が記されているのが特徴です。中でも興味を惹かれるのは、ルイ14世と庭園の関係です。すべての権力を握った王が、癒しを求めて選んだのがヴェルサイユの庭園でした。ルイ14世が目にした庭園はどのような庭園だったのだろうと想像力をかきたてられます。ヴェルサイユの庭園は、民衆や貴族の目から逃れる場として王や王妃の素顔を見守り、人々の逢瀬や悪事などの舞台ともなる。それは昨今も変わらず、恋愛話から映画撮影でのトラブル、幽霊に自殺など、、、人間味溢れるエピソードは尽きません。そして庭師として働く以上、常についてまわる自然との対峙。自然の猛威と向き合い最善を尽くす著者が、力を込めて語るのが技術革新の脅威です。手仕事はやがて機械に取って代わり、便利さゆえに使用される化学肥料や除草剤。庭園にとってどちらが良いのか著者ははっきり述べています。文明批評ともとれる文章は、私達の生活にも通じる部分があり心が痛みます。 自分の信念を貫き、筋の通った著者の語り口は、庭師という職業に誇りを持っているからこそと感じられます。自分の職業に対する向きあい方も学べる内容です。 綿密な観察と調査が物語るヴェルサイユ庭園。その舞台裏と新たな見方を知りたい方にお勧めです。
(県立図書館職員:ヴェルサイユに住みたい)