『コーダの世界 手話の文化と声の文化』 澁谷智子著 医学書院 2009年 資料番号:22374292 請求記号:369.27/275 OPAC(所蔵検索)
「コーダ(CODA)」という言葉をご存じですか? コーダとは、「Children of Deaf Adults」の略で、耳の「聞こえない(ろうの)」親を持つ、耳の「聞こえる(聴者の)」子どものことをいいます。コーダは、生まれたときからろう者の世界と深くかかわりながらも、聴者の世界にも身を置く、二つの世界を生きるマイノリティと言えます。本書は、比較文化研究・社会学の研究者である著者が、コーダとその家族にインタビューしたエピソードをもとに書かれています。
コーダの目に映る世界とはどのようなものでしょうか? 聞こえない人は、主に手話を第一言語とした視覚重視の「ろう文化」のなかで生活しています。一方、聞こえる人は、音声にもとづく「聴文化」のなかで暮らしています。ろう者の家庭で育つコーダは無意識のうちに「ろう文化」の規範を身につけており、学校や職場などで周囲との感覚の違いに戸惑うことがあるといいます。
本書では、コーダの経験するカルチャーショックのエピソードがいくつか紹介されています。あるコーダは子どものとき、新しい服が似合うかどうか訊かれて、似合わないとはっきり言ってしまったことがあったそうです。会話中に相手の目をなかなか逸らさないために、怖いと思われるコーダもいます。曖昧な表現を嫌うろう文化では、相手の目をしっかりと見つめ、ストレートでシンプルな表現が好まれます。「察する」とか「暗黙の了解」が前提となる聴文化とは違います。
ところがコーダの場合には、同じマイノリティとはいっても外国人や帰国子女の人たちとは異なり、特殊な経験を経てきたことが理解されにくく、周囲から〈変わっている〉とか〈常識がない〉などといった否定的な印象を持たれてしまうことがあります。さらには、コーダ自身は聴者であることから、ろう者である親たちに過度に期待されてしまい重圧を感じることもあります。
とはいえ、複数の価値観を生きるコーダは、広い視野をもっているように思います。最近では、「コーダの会」をはじめとするコーダ同士の集まりも活発です。仲間との出会いや交流は心強いといいます。
この本は、聞こえる人はもちろん、マイノリティであるコーダ自身にとっても、さらには、ろう者にとっても気付くところは大きいように思います。
(県立図書館職員:チョココロネ)