公開

学問のすすめ 初編 2018年は明治元年(1868年)から起算して満150年に当たります。明治150年関連イベントが全国で行われていますが、当館でも所蔵資料から明治期のベストセラーを紹介する展示を開催しています。ここでは展示担当より、皆さんにぜひ見ていただきたい展示資料をいくつかご紹介します。

明治時代のベストセラーといって誰もが思い浮かべるのは、福沢諭吉の『学問のすすめ』ではないでしょうか。明治年間での流布部数は約340万部と言われています。全17編の印刷に注目してみると、明治に普及した活字を組む活版印刷と、江戸時代と同じ版木による木版印刷が混在しています。明治期には印刷技術が大きく進展しますが、当時は過渡期であったため、『学問のすすめ』への大量注文に応えるため旧来の木版印刷で迅速に対応していたことがうかがえます。

『食道楽 夏の巻』口絵
明治のグルメ小説と言われる『食道楽』をご存知でしょうか。明治後期に大衆的な人気を博し、県内の平塚市に居を構えた村井弦斎の代表作です。うまい物を腹一杯食べたいという夢を持つ主人公の小説には600種を超える料理・お菓子のメニューやレシピのほか、食生活に関するあらゆる話題が盛り込まれています。平塚市では毎年「村井弦斎まつり」が開かれています。

雅俗折衷体 『金色夜叉 前編』 明治31年 「貫一は力無げに宮の手を執れり。宮は涙に汚れたる男の顔をいと懇に拭ひたり。「吁、宮さん恁して二人が一処に居るのも今夜限だ。お前が僕の介抱をしてくれるのも今夜限、僕がお前に物を言ふのも今夜限だよ。一月の十七日、宮さん、善く覚えてお置き。来年の今月今夜は、貫一は何処で此月を見るのだか! 再来年の今月今夜......十年後の今月今夜......一生を通して僕は今月今夜を忘れん、忘れるものか、死でも僕は忘れんよ!」 貫一お宮で知られる『金色夜叉』も明治時代を代表するベストセラーです。内容もさることながら、尾崎紅葉の雅俗折衷体による文体も高い評価を得ています。展示では名場面として名高い熱海海岸のシーンの文章を大きなパネルで紹介しています。この他にも、明治期の言文一致運動の足跡が見られる作品を紹介しておりますので、当時の文体を味わっていただければと思います。

今回の展示でご紹介した作品のほとんどは、現在も文学全集や復刻版等で手に取って読むことができます。150年の歴史を超えて魅力を持ち続ける明治の作品にふれてみませんか。
当展示は平成31年2月13日(木曜日)まで本館1階展示コーナーで開催中です。

(県立図書館 企画協力課:展示担当)