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講演の様子 神奈川県立図書館の所蔵コレクションの1つに、明治以降約150年間のベストセラーを収集した「ベストセラーズ文庫」があります。今年は、明治元年から起算して満150年の年に当たり、当館のコレクションを多くの方に知ってもらえるよう、フリーライターの永江朗さんを講師にお招きし、「明治のベストセラーと出版文化」というテーマで講演会を行いました。

明治時代に書かれた作品は、文語体で書かれているものも少なくありません。そのため、現代の私たちには、何となく敷居が高く感じられることもあるかと思います。しかし、永江さんからは、坪内逍遥(ツボウチショウヨウ)の『当世書生気質』(OPAC検索)は、「書生」という、若きエリートの諸相を描いたゴシップの要素が強いことや、福沢諭吉の『西洋事情』(リンクは〔1編〕巻之1)(OPAC検索)は、現代に置き換えると、書店で平積みになっている実用書の類であった等、親しみの持てる話題を沢山ご紹介いただきました。

一方で、明治時代の出版物における最大の功労とは、「日本語をつくる」ことであったという点も、印象的でした。江戸時代までの日本語は、いわゆる「お国言葉」や、身分、職業によって言葉遣いが異なっていました。しかし、明治時代になると、当時の文部省は日本語の「標準」を示すものとして、『言海』という辞書の編纂を、大槻文彦に命じました。大槻は、日本語の「標準」とは何かを模索し、国内全域で通じる言葉を丹念に調べ、積み重ねた末に『言海』を完成させました。永江さんは、その様子を現代の小説『舟を編む』(OPAC検索)になぞらえて解説されました。

講演中は、本の表紙や装丁についても、画像を投影し、わかりやすく解説していただきました。時折ユーモアを交えたお話に、会場は和やかな雰囲気に包まれ、あっという間の2時間が経過しました。参加者は熱心にメモをとりながら、永江さんの講演に聞き入り、講演後のアンケートでは、9割の方から「満足」との回答をいただきました。

現在、出版文化は大きな転換点にあると言われています。かつて「三位一体」と言われてきた、出版社、取次、書店が今後の活字文化をどのように育んでいくのか、そして、図書館もその一翼を担うために何ができるのかを、絶えず模索しなければならないと感じました。

これからも県立図書館では、図書館の魅力を伝え、多くの方に楽しんでいただける講座を企画していきたいと思います。今後とも、県立図書館のご利用をよろしくお願いします。

○リンク先
「ベストセラーズ文庫」

(県立図書館 調査閲覧課:講座担当)