2020年5月25日米ミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系アメリカ人の黒人男性ジョージ・フロイド氏が、警察による不適切な拘束によって死亡した事件が起きました。この事件の様子を撮影した動画がSNS上で拡散されたことで、全米を巻きこむ大規模な抗議デモへと拡大しています。新型コロナウイルス感染症による死亡者や失業率の増加などを背景に社会不安が高まる中、2020年11月に大統領選をひかえるトランプ大統領の言動にも注目があつまり、抗議デモの収まる兆しがみえません。 また、2013年から黒人差別抗議運動のキーワードとなっていた「#Black Lives Matter」のハッシュタグをつけてインスタグラムやツイッターなどのSNSに投稿する抗議運動は、日本を含め世界的な広がりをみせました。 抗議運動はなぜ広がりをみせたのか、アメリカにおける黒人の歴史を探るとともに、アメリカ社会の人種問題について参考となる資料をご紹介します。
図書のとびら
『アメリカ黒人の歴史 奴隷貿易からオバマ大統領まで』
上杉 忍著 中央公論新社 2013 請求記号:316.85/79 (22664825) 公開
アメリカの2010年の人口調査で、黒人あるいはアフリカ系アメリカ人の比率は12.6%という結果が出ています。そのアイデンティティーは多様化し、16世紀初頭以降アフリカからアメリカに運ばれた黒人奴隷をルーツとしているアフリカ系アメリカ人に、近年アメリカへ渡ってきたアフリカ系の移民などが加わり、それぞれの集団を形成しています。著者は、「それにもかかわらず、アメリカ人たちは、彼らを一様に『黒人』として扱う傾向がある。」と指摘しています。本書は、独立以前の北米植民地での黒人奴隷制から「黒人」大統領が誕生した近年までの黒人およびアフリカ系アメリカ人の歴史を解説し、今なお残された諸問題について提起しています。
『白人ナショナリズム』
渡辺 靖著 中央公論新社 2020 請求記号:316.85/96 (23143639) 公開
トランプ氏が「米国を再び偉大に」のスローガンを掲げ大統領選に出馬するなか、オルトライトと呼ばれる若い世代を中心とした白人至上主義のネットワークが広がり、白人至上主義者による「白人」抗議集会で反対派と衝突する事件が起きています。著者は、「米国の今後を理解するうえで『白人ナショナリズム』の問題は避けて通れない」と語ります。本書は、白人至上主義団体AmRenの代表やKKK有力団体の最高幹部をはじめ、人権関係団体や専門家、そして白人ナショナリストたちのフィールドワーク(参与観察調査)を通して、欧米に広がる白人至上主義の実態に迫ります。
『「ヘイト」の時代のアメリカ史 人種・民族・国籍を考える』
兼子 歩/貴堂 嘉之編 彩流社 2017 請求記号:316.85/88 (22919575) 公開
日本国内のヘイト問題に端を発して編纂された本書は、「最近の日本における『人種』『民族』『国籍』『ジェンダー』『セクシュアリティ』など、カテゴリーやその境界線、寛容/不寛容に関する問題を批判的に再考することを積極的に読者に促すような内容を目指」し、総勢13名(編者2名含む)のアメリカ研究者によるアメリカの歴史における人種問題などのマイノリティに焦点をあてた論集です。各章末には、関連書籍の「読書案内」と、問題意識を日本社会にあてはめて考えるためのディスカッションポイントが挙げられています。
『Women ここにいる私 あらゆる場所の女性たちの思いもかけない生き方』
ナショナルジオグラフィック編著 湊 麻里訳 日経ナショナルジオグラフィック社 2020 請求記号:367.2/738 (23138654) 女性関連資料室1 公開
Black Lives Matter運動は、2013年に黒人少年が射殺された事件の無罪判決が出た際、活動家兼作家のアリシア・ガルザ氏がフェイスブックにその不満を投稿し、オパール・トメティ氏とパトリス・カラーズ氏が賛同、カラーズ氏がガルザ氏の投稿文の末尾に記された言葉「Black Lives Matter」をハッシュタグとともに拡散したのが始まりです。本書には、この運動の共同創始者であるアリシア・ガルザ氏のインタビューが掲載されています。 また、ガルザ氏のほかさまざまな分野で活躍する22名の女性たちのインタビューと、「喜び」「美」「愛」「知性」「力強さ」「願い」をテーマにした、ナショナルジオグラフィックのアーカイブ写真の歴史に残る女性たちの写真が集められています。
雑誌のとびら
「Special Report Black Lives Matter いま、アメリカが変わる。」
『Newsweek ニューズウィーク日本版』 CCCメディアハウス 35巻26号(通巻1700号) 2020年7月7日 p18-37 請求記号:Z051/197
国際ニュース週刊誌ニューズウィークのBLM特集記事です。ピューリツァー賞受賞ジャーナリストのウェスリー・ラウリー氏の特別寄稿では、下院議員アル・グリーン氏のジョージ・フロイド告別式でのスピーチや、6年間取材を続けてきた警察による暴力に立ち向かう若い活動家たちの声が紹介されています。また、各テーマ(歴史・手記・視点・分析・フォトエッセー)が設けられ、ブラックパンサー元工作員へのBLM運動の歴史的背景についてせまった取材記事や、活動家グウェン・カー氏の手記、運動のきっかけとなったジョージ・フロイド殺害現場の様子やそこに集う人々の写真が掲載されています。
新聞のとびら
「米デモ拡大 三重苦が招く」
日経新聞2020年6月3日朝刊 p3
トランプ大統領の抗議デモ鎮圧を州知事に迫る態度に、ホワイトハウスの周囲が抗議デモで囲まれるなどの混乱状態が起きている様子が取材されています。また、感染死亡率・年間所得・失業率等に関するグラフが掲載され、新型コロナ感染死亡率は黒人が白人の2倍超え、年間所得も黒人は白人の6割強、コロナによる失業率も黒人は16%を超えて、白人より2.5ポイントも高く、これらの要因が抗議デモの拡大につながった面があると分析しています。
「[米の人種暴動]刑罰国家化強まる恐れ」 (月刊時論フォーラム)
毎日新聞2020年6月25日朝刊 p11
法政大教授 田中研之輔氏による論評です。黒人抗議デモが、確固たるエビデンスと「人種支配」の再可視化によって暴動にいたっているということを説明しています。ただし、メディアの「人種差別の問題」という認識だけでは社会情勢を見誤ると指摘し、アメリカの奴隷制からハイパー・ゲットーなどの歴史的経緯<監視社会から監獄化社会>への社会的変化をふまえて、現代アメリカ国家の刑罰国家化が強化されることを懸念しています。
「差別とSNS 権力の暴力可視化その先へ」 (論壇時評)
朝日新聞2020年6月25日朝刊 p13
ジャーナリスト津田大介氏が、6冊の資料を紹介しながら論じています。BLM運動が広がる理由、黒人への偏見を悪用した制度的人種差別の背景、現代の不可視化した権力の暴力的な力がSNSによって浮かび上がったこと、SNSが制度的な変更を要求する人々を動員する力を持つことを解説するとともに、津田氏は、「この問題は、日本にとっても他人事では済まされない。(中略)差別がいつまでも解消しないのは、日本人が生権力に対してひたすら鈍感であるからだ」と指摘しています。
インターネットのとびら
アメリカ大統領選挙2020 >抗議デモ /NHK NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/demonstration/
「アメリカで、黒人男性が白人の警察官に押さえつけられて死亡した事件をきっかけに、抗議活動が広がっている。市民の怒りの矛先はどこへ向かうのか?社会に変化は起きるのか?」(「抗議デモ」ページ冒頭紹介文より) 2020年11月に行われるアメリカ大統領選挙に向けての特集ページ。「リポート」「選挙の方法」「有権者の声」「抗議デモ」「新型コロナ」の項目があり、それぞれニュースの解説記事や、動画などが掲載されています。「抗議デモ」の項目では、ニュース記事5本、動画「白人警官に兄を奪われた弟の訴え」1本が掲載されています。(2020.9月現在)
Black Lives Matter /SPRINGER NATURE
https://www.springernature.com/gp/researchers/campaigns/black-lives-matter
学術書籍出版社シュプリンガー・ネイチャー社のCEOフランク・ブランケン・ピーターズが、BLM運動をうけて声明を出し、出版社の答えとしてBLM運動に関連した著作物をまとめたポータルサイトを立ち上げました。人種差別、警察や抗議活動、ジェンダー、差別や抑圧、健康格差についての図書や論文、ブログ情報の他、黒人女性研究者の講演映像が登録されています。登録コンテンツは無料で閲覧できます。(すべて英語) フランク・ブランケン・ピーターズのメッセージ(日本語訳ページ) https://www.springernature.com/jp/news/20200611-ceo-message-blm-portal-site-announcement-jp/18070446