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『はじめてであうすうがくの絵本』表紙画像『はじめてであうすうがくの絵本』 安野光雅著 福音館書店 1982年 資料番号:12835294 請求記号:410 /ア 1~3 OPAC

私が子供のころにこの絵本に出会っていたら、学生時代にあれほど数学で苦労することもなかっただろうと思いました。今回ご紹介する絵本は、数学的概念のまだない小さな子供(対象年齢は4歳から)に、遊びを通してものの見方や捉え方を導き、発見することの喜びや創造することの楽しさを教えてくれるような知育絵本です。この本は、私たち大人にとっても子供のころとはまた違った発見があり、数学的概念とはこのようなところから始まっていたのかと興味深く読むことができます。

著者の安野光雅氏は、挿画や装丁などを手がけていた関係で遠山啓氏などを始めとする数学者や科学者や小説家と親交がありました。彼の豊富な知識と想像力、そして物事を多角的にとらえられる科学者のような視点は、そんな幅広い交友関係も関係しているようです。この本のあとがきで彼は述べています。「本当の数学は、発見の喜びをいたるところにちりばめながら、歴史始まって以来、いまも創りつづけられつつある思考の大建築です」と。まるで、スペインの建築家アントニオ・ガウディのサグラダ・ファミリアを彷彿させます。

第一巻は、「なかまはずれ」、「ふしぎなのり」、「じゅんばん」、「せいくらべ」が掲載されています。これらは、数学の概念で集合や比較、図形、位置関係の分野にあたります。たとえば「なかまはずれ」の章は、「条件」がキーワードになります。「この中で仲間はずれは、どれ?」と子供にきいてみましょう。また、ある「条件」を探し出す問題では「これは、どんな仲間で集まっているの?」と。子どもたちは、一生懸命考えてくれます。中には、大人でも頭をひねるような問題もありますが子供たちは、試行錯誤しながら「解」を見つけ出すことに夢中になるでしょう。時には、なかなかうまくいかずに大人にヒントを求めてくることもあるかと思います。しかし、それでもいいのです。大人のちょっとしたヒントで答えを見つけ出し、褒められることで発見する喜びと考えることの大切さを知ることができるのですから。そして、子供たちはきっと自信を持つことでしょう。そんな小さなことの積み重ねが子供たちの大きな自信につながります。

この絵本には、第三巻もあります。そちらでは、原因と結果の関係性や数・量の比較、座標・幾何など科学的要素を含みつつ、少しずつ踏み込んだ内容となります。子供たちのさらなる知的好奇心を満たしてくれるきっかけがたくさん詰まっています。日々の生活の中で、そのいたるところに応用されている数学的概念を、子供のころから先入観なく学ぶことができる内容なのではないでしょうか。ぜひ、この絵本でお子さんと一緒に頭を悩ませながら、色々なヒントとともにたくさんお話をしてあげてください。そして、それらが子供のころの楽しい思い出の1ページになりますように願っています。

(県立図書館:子犬の時間)