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『技術屋の心眼』 E.S.ファーガソン著 藤原良樹、砂田久吉訳 平凡社 1995年 資料番号:81220303 請求記号:502 57 OPAC

初版から30年近く経た今でも、技術者の入門書として評価されている一冊です。

ファーガソンは序文で、「技術によって生み出された人工物に含まれている知識は、どんなものであれ科学がもたらしたものにちがいない―科学の時代と言われる今日、こうしたあまりにも安直な考えが一般的となっている。これは現代の俗説の一つであり、そうした俗説は、技術に携わる人々がわれわれの住んでいる世界を形づくるに際して、科学的とはいえない多くの決定―大きなものも小さなものも―をしていることを無視している。日常使用している多くの物体が科学の影響を受けていることはたしかである。しかし、それらの形状、寸法、外観は、技術に携わる人々―職人、技術者、発明家―によって、科学的ではない思考法を用いて決定されてきたのである。」と書いています。

ものづくりは科学や数学の知識だけでは成り立たず、言葉では明確に表現することができない視覚的思考が不可欠であり、非常に重要である。とかく、ものづくり(本書では設計を主にしている)は過度に机上での解析や検討に重きを置きがちだが、ものづくりの根本には、実際に目で見、肌で感じた経験を持ってのみ養われる直観的で図像的な思考や必然性のない判断が必要であるというのです。

そういった視覚的思考をファーガソンは"心眼"(マインドアイ)と表現し、「心眼は、思い起こされた現実のイメージと思い描いた工夫のイメージが存在する場所であり、信じられないほどの能力をもつ不思議な器官である。心眼は、ほんとうの眼を通して入ってくるよりもずっと多くの情報を集めて解釈し、生涯にわたる感覚的情報―視覚、触覚、筋力、内臓、聴覚、臭覚、味覚の情報―を集積して、相互につないで関係づける。」といっています。

本書ではそうした"心眼"の必要性を証明するように、ルネサンス期から現代にいたるまでの、さまざまな技術を図面・絵・模型などの例を多数あげて解説、紹介するとともに、科学やコンピューターに頼り過ぎたために失敗した例も細かく指摘、解説しています。

さらには、現代の工学の教育現場から経験の場が奪われ、数式と計算に偏した技術教育が行われていることに警鐘を鳴らしています。

挿し絵として多くの歴史的な図版が使われており、工学は敷居が高くても、ぱらぱらと捲りながら近現代の多くの技術者の思考、技術に思いを巡らせ楽しむこともできます。

心眼とは

科学の知識だけではものづくりはできない

数々の経験が重要

言葉にできない判断と選択。

現場で学ぶ機会が失われていることを危惧

(県立川崎図書館:夢をかなえるマインドアイ)