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表紙の画像『宇宙ビジネスのための宇宙法入門 第2版』 小塚荘一郎編著 佐藤雅彦(国際法)編著 有斐閣 2018年 資料番号:22999361 請求記号:329.26/24A OPAC

アーサー・C・クラークの小説内で、ディスカバリー号が土星へ向けて出発した年より20年近くの歳月が過ぎようとしています。いまだに他惑星への有人飛行の実現は遠い未来に思える一方、新聞などで宇宙ベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」が国産民間ロケットの打ち上げに挑戦した事や、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」へ到着したなどの記事を読みますと、少しずつですがSF小説で描かれた世界が近づいているようにも思えます。


今回紹介する本は、国連の宇宙諸条約や、宇宙開発が国家プロジェクトとされていた時代の慣行や実務など、広い意味での宇宙法についてビジネスの観点から解説された本です。前半で現状の「宇宙法」の解説、後半でさまざまな宇宙ビジネスとそれに関する法律を取り上げる構成になっています。

法律の解説といいますと固い話を想像しますが、具体的なエピソードや興味深い事柄が随所に挟まれ、法律に詳しくない人でも楽しんで読むことができます。例を挙げると、「宇宙法」が対象となる「宇宙」と、国家の主権が及ぶ「領空」の境目はどこにあるのか。アメリカの企業ルナ・エンバシー社が月の土地を売り権利書を発行しているが、「国連宇宙条約」には天体の所有についてどう記されているのかなどです。

国際宇宙ステーション(ISS)を計画する際に作られた協定を解説した章では、協力を円滑に進めるためISSで起きた他者の過失の損害には賠償請求を行わないことや、物品が移動する際の輸出・輸入の関税の扱いについてなど、宇宙関連の新聞記事を読んでいるときには思いもしないことが書かれています。

宇宙ビジネスを取り上げている章では、それに関する現在の法律がどのようなものなのかが書かれています。たとえば宇宙観光の方法の一つであるサブオービタル飛行(弾道飛行)では、サブオービタルロケットは現在の日本の航空法では航空機と宇宙機のどちらに区別されるのかなど。

本書の中で「法律は社会活動の発展に伴い進化する」と記されています。SF小説には科学によって発展した世界での人間の行動を想像していくというものもあります。この本に描かれている「宇宙法」を作っていくさまは、宇宙技術の発展によって人間に起こることを推測しルールを作っていくという、まさにSF小説のようでした。

(県立図書館:HAL 2018)