『鶴になった老人 丹頂鶴の恩返し』 高橋良治著 角川書店 2010年 資料番号:22419725 請求記号:488.5/102 OPAC
皆さんは「タンチョウ」という鶴のことをどのくらいご存知でしょうか?数年前の夏目漱石が印刷された千円札の裏面で舞っている鳥です。全体の白い羽、首と羽先の黒、頭頂部の赤が特徴的な優雅な鶴のことを、私はなんとなく知っているつもりでした。しかし、知っていたのはその美しい姿だけで、実は何も知らないことをこの本を読んで気づきました。 タンチョウは学名を「Grus japonensis」といい、その意味は「日本の鶴」です。この学名に国名が使われている鳥は、めでたい鳥「瑞鳥」として江戸時代までは保護されてきました。しかし明治維新以降、乱獲されその数は激減したそうです。絶滅したかと思われたタンチョウが、釧路に確認され保護活動が始まります。その後、特別天然記念物にも指定され、昭和33年釧路市に「鶴公園」が開園されます。 この本の著者髙橋良治さん(北海道釧路市丹頂鶴自然公園名誉園長)は、鶴公園開園当初から管理者として務め、タンチョウと向きあってきました。当初、野っ原同然の公園で、警戒心の強いタンチョウの姿を確認することだけでも大変だったようです。愛犬に手伝ってもらい、やっと確認することができても、餌を与えるために近づくとまた逃げていくといった具合でした。 読み進めるにつれて驚いたことは、著者がタンチョウの鳴き声や行動を観察し、理解するその研究熱心さが際立っていたことです。著者は、世界初のタンチョウの人工孵化を成功させますが、その過程で、親鳥がどのようにして卵を孵化させるかを徹底的に調べます。双眼鏡とストップウォッチを持ち、事細かにチェックします。そういった観察をもとに試行錯誤の末、温めていた卵の中からかすかに声が聞こえると、「ピーちゃん、おはよう」と声をかけたりもします。その光景を想像すると、何とも言えない温かい気持ちになりました。 著者は、育てたタンチョウに求愛されてしまうこともあります。どうやって、切り抜けるかは読んでのお楽しみです。さまざまなエピソードの中に、著者とタンチョウとのコミュニケーションが愛情に満ちていることを感じます。 タンチョウは一度つがいになると相手が死ぬまでその夫婦関係は続くのだそうです。相手がケガや病気で動けなくなると、そのそばで悲しげになくそうです。そんなタンチョウたちを見てきた著者は最後に、「自分が窮地に追い込まれたときに助けを求めることができる相手、あるいは、ピンチになったときにそばにいて安心させてくれる存在こそが財産」と教えてくれます。 雪景色の釧路で、舞うタンチョウを眺めたくなる一冊でした。
(県立図書館:その猫凶暴につき)
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