『働く幸せ』 大山泰弘著 WAVE出版 2009年 資料番号:13507652 請求記号:SC33
昨年初夏のある日、神奈川新聞に掲載された「知的、精神障害者も対象 県職員採用試験、本年度から」という記事を読んで私は真っ先にこの本を思い出し、ぜひ紹介したいと思いました。
川崎市にある日本理化学工業株式会社は、なんと社員の7割が知的障害者だそうです。
障害者が健常者より多いなんて、授産施設から発展した会社なのでしょうか?
いいえ違います、ごく普通の民間会社です。しかも、当初は知的障害者を雇うなんて「無理です」と採用を断り続けていたそうです。
そんな会社がどうして障害者雇用率7割(民間企業法定雇用率は2.2%)にも至ったのか?その過程は順調だったのか?興味はつきません。
この本は、日本理化学工業の大山会長が会社の歩みと障害者雇用への取り組みを一冊にまとめられたものです。
この会社が知的障害者を初めて雇用したのは障害者雇用推進法が施行された年でしたが、当時対象とされていたのは身体障害者のみで、知的障害者は何の対策もされず対象外でした。
養護学校の先生が生徒の雇用依頼に何度来られても「無理です」と断り続けた大山氏は、「就職は無理でも働く体験をさせてほしい」と頼まれ、断り続けた後ろめたさから職業体験として2名受入れます。すると最終日に現場から「こんなに一生懸命なのだから、私たちが面倒をみるから雇ってあげて欲しい」と声が上がり、それならばと雇用はしますが、対応は現場に丸投げだったそうです。
同情心と厚意でスタートしましたが、だんだん障害者雇用が増え、経緯を知らない健常者が増えるに従い軋轢が生まれ、従業員の厚意頼みでは成り立たなくなります。健常者に「お世話手当」を出すことで調整しますが同じ従業員なのに健常者と障害者の間で上下関係が出来たり、仕事外の人間関係などでさまざまな問題が露呈します。
「それで本当に良いのだろうか」そう考えた大山氏は障害者と健常者どちらに軸足を置くか悩み、迷い、そして「知的障害者が働く会社が、日本に1つぐらいあってもよい」というお父様の生前の言葉に背を押され障害者を軸に据えます。
作業工程を新たな発想で見直し改革することで知的障害者のみでの製造ライン稼働を実現、作業目標の設定・達成を成し遂げます。さまざまな困難がありましたがそれらを乗り越え、現在では知的障害者の方自身が現場のリーダーや班長としてとして製造の責任者になり、後輩を指導しています。
さて、本のタイトルになっている「働く幸せ」って何でしょうか?
導師は人間の究極の幸せは、
人に愛されること、
人にほめられること、
人の役に立つこと、
人から必要とされること、
の4つと言われました。
働くことによって愛以外の3つの幸せは得られるのだ。
私はその愛までも得られると思う。 (大山泰弘)
----本書プロローグより抜粋----
人間の幸せは、働くことによって手に入れることができると大山氏は言います。
本書の中には障害者の方の「働きたい」という気持ちが溢れています。
私も初心に立ち返り「働きたい」気持ちを大切に、幸せを手にしたいと思います。
当館にはこの会社や大山氏に関する本が他にもあります。お手に取っていただけると幸いです。
『「働く幸せ」の道』 大山泰弘著 WAVE出版 2018年 資料番号:60746062 請求記号:K58.21/33 OPAC(所蔵検索)
『虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡』 小松成美著 幻冬舎 2017年 資料番号:60709144 請求記号:K58.21/31
『「ものづくり力」で挑戦する独創企業 なぜ、この会社は独自価値にこだわるのか!』 浜銀総合研究所経営コンサルティング部編著 プレジデント社 2012年 資料番号:60598026 請求記号:K33/180 OPAC(所蔵検索)
『利他のすすめ チョーク工場で学んだ幸せに生きる18の知恵』 大山泰弘著 WAVE出版 2011年 資料番号:60584075 請求記号:K58.21/28
(神奈川県立図書館 :ともに生きる社会)