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講演中の講師、松居友氏の写真 平成30年12月8日(土曜日)の午後、神奈川近代文学館で「子ども読書活動推進フォーラム」を開催しました。このフォーラムは、子どもの読書の大切さについて理解を深め、県内の優れた読書推進の取り組みをみなさんに知っていただくことを目的に、平成16年度より開催しています。

今回は、児童文学者でミンダナオ子ども図書館の主宰者でもある、松居友先生のご講演「絵本は愛の体験です~お話の生きている世界とは?~」と、横浜市立駒岡小学校の岩元先生による学校図書館の事例発表、「いぬくら子ども文庫」の渡部代表による報告と実演というプログラムでした。

松居友先生は、福武書店(現ベネッセ)で児童書部初代編集長を務め、退社後は北海道に移りアイヌ文化と沖縄文化の宇宙像に関心を持ち『火の神の懐にて』等を執筆されました。2001年にフィリピン・ミンダナオ島で「ミンダナオ子ども図書館」を設立し、読み語り以外にスカラシップ(奨学制度)・医療・植林・保育所や学校建設といった活動を行っています。

第1部の松居先生の講演では、読み聞かせ・読み語りなどの絵本体験の重要性を、ご自身の読書体験、ミンダナオ子ども図書館の紹介映像、著書の朗読などを交えてお話しいただきました。
日本にいたころ、小さいころから絵本はたくさん読んでもらっていたし、絵本の編集者になって、絵本体験を書いてみないかといわれて書いたが、絵本体験を書いてみて、あらためて絵本を読んでもらうとはどういうことなのかを考えられたとのことでした。絵本体験の根本になる事柄は、本が生まれる前のお話の世界として存在している「語り」や「昔話」であり、こうしたお話の生きている世界などが都市文化の中では失われつつあって、それを復活させる必要があるのではないか。

30年前に『わたしの絵本体験』(請求記号:019.5/86A OPAC検索)、『昔話とこころの自立』(請求記号:388/7220 OPAC検索)、『昔話の死と誕生』(請求記号:388/71A OPAC検索)を執筆された当時は受け入れてもらうのは難しいだろう、売れないだろう、というものだったが現在まさにそれが重要な時代となっていると感じる。二分しない世界、善と悪、ファンタジーとリアリズムを区別するのではなく、一体となったそのあいまいさ、それがこれからの世界を救うのではないか。今の子どもたちを取り巻く世界は余りにも息苦しい。

ミンダナオ島の子どもたちは絵本を見たことがない。それでも読み語りを行ったら子どもたちに力を与える。読み語りを聞いた子どもたちが他の子どもたちに語りだす。1回か2回聞いただけで語ることができる、聞く力の凄さがある、日本語の絵本を見ても、絵を見ながらお話を語ることができる。お話の生きている世界がそこに存在する。正に現在進行形で、この世界に生きている人は大人も子どもも日々の生活の中で見えないものと共存している。こうした様子をミンダナオ子ども図書館の映像を交えて紹介された。

また、子どもたちにとって死を考えることはとても大切だと考えて『サンパギータのくびかざり』(松居友さく/ボン・ペレスえ、請求記号:E1/マ OPAC検索)を書いたが、子どもに死について語るべきではない、という風潮であるのは変であり、愛情をこめて死について語るべきだと述べられた。物語の中で死を教えることによって、思春期に死に向き合った時に乗り越える力になる。昔話は死を語っている。現在は死をきれいごとで済ませているのではないか。
こうした絵本の読み聞かせを通じて得られる体験の数々を、時には著書の朗読なども交えながらお話しいただき、参加者のみなさんにも子どもの読書に関わる様々なメッセージが伝わったと思います。

第2部の事例発表・実演では、はじめに横浜市立駒岡小学校の岩元先生から、「子どもを読書につなぐ手立て」と題して、司書教諭、学校司書、ボランティアが協力して、居心地は良いが整理されていなかった図書室を図書館へと改革したあゆみが紹介されました。
学習コーナーの設置やショーケースの有効活用、「全校ビブリオバトル」の全校投票でチャンプ本を決定する事で児童の関心を図書館に向ける取り組みなど、工夫を凝らして「図書館は自分の課題を解決する場所」であり、読書だけでない図書館をアピールした取り組みは、児童の図書館への興味を上手に引き出していました。蔵書や貸出数の倍増計画を立て、限られた予算の中、創意工夫によって図書館を使わずにはいられない状況を作るなど実績を残している報告がされました。

次に、川崎市の「いぬくら子ども文庫」の代表・渡部氏から、文庫の活動について、本の貸出し、読み聞かせや工作などを行うおはなし会の他、近隣の小学校の学習支援や読書相談、読書通帳、地域の文庫等との連携などが、記録ビデオを交えて紹介されました。続いて自作の紙芝居「かめくんのたねまき」を、紙芝居とプロジェクターでの投影で実演されましたが、おはなしの内容と渡部氏のユーモラスな語り口に会場の参加者もうなずいたり、笑ったりして楽しんでいました。

今年のフォーラムも多くの方にご参加いただき、盛況のうちに終えることができました。
お忙しい中で快くご講演くださった松居先生、解りやすく、丁寧な資料を作成してくださった駒岡小学校の岩元先生、オリジナルの素敵なストーリーの紙芝居を熱演して下さったいぬくら子ども文庫の渡部様、そしてご参加くださったみなさん、関係者のみなさん、ありがとうございました。

(県立図書館:「子ども読書活動推進フォーラム」担当)