日時・会場
平成27年12月10日(木曜日) 14時00分から16時00分
県立図書館新館4階セミナールーム
アドバイザー紹介
鶴見大学学術情報事務室・IR推進事務室 事務長 長谷川 豊祐 氏
1979年4月 鶴見大学図書館勤務
1996年9月 「図書館員のためのインターネット」運営管理人
2000年4月 日本図書館協会出版委員(2011年より委員長)
2008年 慶應義塾大学通信教育部非常勤講師「図書館・情報学」
【最近の論文】】
(共著)神奈川県内の大学図書館における地域連携.「大学図書館研究」2013年、 99、 1ページから13ページ掲載
レクチャー概要 「あらためて図書館の役割を考え直す」
はじめに
昨今、いわゆる「TSUTAYA図書館」など、これまで図書館に興味のなかった人たちやメディアが、図書館に注目するようになってきた。新聞においても、文化面ではなく、経済、社会、政治面などに取り上げられるようになり、これまでの文化面の担当記者とは違う視点や切り口で図書館が紹介されるようになっている。それらを見ると、世の中の図書館に対する認識が、図書館員とはかなり違うように感じられる。また、図書館の職員として図書館をアピールすることについても、予算を獲得するために有効なアピールと利用者へアピールしたいことは、逆の場合がある。これらの実感や体験から、図書館の役割とは何か、あらためて考えさせられている。
1 図書館の普遍的な役割
図書館の役割とは何か、を考えていくと、これまでの教科書的な解釈ではこたえきれない要素があることは否定できない。しかし、普遍的な役割は確かに存在すると考えたい。その普遍的役割を担う最大の要素は「蔵書」である。
一方、図書館はその独特な組織形態(建物は独立の場合が多く、組織内での他部署とのつながりが少ない)や業務内容から、自律的な存在であり周囲の変化を超越した側面があった。
しかし、図書館の最も重要な構成要素である蔵書(すなわち出版物)にデジタル化という変化が生じたことは、否応なしに図書館にも影響を与えた。図書館は図書や雑誌に限らない「情報」入手の場所へと変化した。ただし、ここまでの変化は、図書館の本質と照らして、その範疇を大きく外れない範囲での変化としてとらえることができた。
2 時代や社会の変化への対応
図書館を取り巻く社会は、90年代を大きな転換点として変化してきた。経済的にはバブル経済の崩壊、技術的には電算化やインターネットの普及がある。これにより、図書館が扱う資料そのものの変化や利用者の要求の変化、設置母体の経営悪化、異業種の参入などに図書館は直面している。また同時に、地域創生、ネットワークなど新たなサービスも創出されてきた。一方、目に見えない変化もあり、なかでも、図書館運営の成果はなにか、という認識の転換が見逃せない。成果を客観的に見せていかなくてはならないようになってきた。たとえば、図書館員は、目録データを整備しOPACが公開されて検索できるようになることを"成果"とみなす。しかし、本当の成果は、そのOPACを利用者がどう使い活かしたか(たとえば、OPACを活用してよいリポートを書くことができた)であると考えることができる。
3 成果の推移の事例
前段で示したような変化(危機)を乗り越えて、成果を上げてきた鶴見大学図書館での取り組み事例を紹介する。いずれの取り組みも、図書館から積極的に働きかける"プッシュ型"で、授業や教員と連携しながら取り組んでいる。
- 授業時間内新入生ガイダンス:図書館ガイダンスを、授業時間をもらって行うという、教員と連携した"プッシュ型"による取り組み。図書館がガイダンスを開催しているので来てください、といった待ちの姿勢では学生は集まらない。これにより、学生の図書館利用スキルは確実に向上しており、一部、連携がとれずこのガイダンスを行わなかった学部の学生との差は明らか。
- 学生選書ツアー:学生自らに、一定額分の本を選んでもらうもの。利用者と同じ目線で選書するため、貸出増加につながっている。
- 学習アドバイザー(2004年から):院生がOPACの前に座り、学習相談を受けるもの。参考調査カウンターの作業軽減、院生側の教えるスキルの向上がねらい。
- 英語多読:英文科の教員と連携し、多読用の英語読本コーナー設置。貸出増加と同時に英語力の向上にもつながった。
- ブックピックオーケストラのワークショップ「SewingBooks」:各自1冊ずつ持ち寄った本を起点に、アイスブレイキングし、新たな本との出会いを体験するもの。授業の一環として行ったが、教室ではなく、学生にとって敷居が高い図書館で行って、図書館に親しんでもらうようにした。
おわりに
社会人学生対象の「図書館・情報学」の授業で行ったグループワークの結果を紹介。「図書館に期待するもの」というテーマでワークを行ったところ、各グループから出てきた結論は、蔵書の充実、コミュニティ機能の拡充等々、共通する部分も多く見られた。変化の只中にある図書館について考えるうえでの参考にしてもらいたい。
【質疑応答】
Q. 図書館の本質は充実した蔵書というお話だった。当館では予算に制限のあるなかで、少しでも蔵書の充実を図るべく、寄贈依頼に力を入れているが、大学図書館では、どのような取り組みがあるか。
A. 大学図書館同士での「紀要」の交換は盛んにおこなわれている。また鶴見大学では、県立図書館で受入なかった「発掘調査報告書」をもらっている。
Q. 未所蔵本へのリクエストはどの程度あるか。
A. 県立図書館との相互貸借でカバーしている部分もあり、購入につながるリクエストは多くはない。リクエストとして比較的多いのは、歴史や郷土関係の資料である。
Q. ガイダンスの内容を詳しく、またガイダンスを行う職員の育成についても知りたい
A. 新入生向けガイダンスでは、OPACの利用の仕方や館内案内など図書館の基本的な使い方を説明する。そのほかに、教養演習や卒論執筆を控えたゼミ生対象など、段階に応じたガイダンスも行っており、雑誌の探し方やDBの使い方など、一歩進んだ内容となっている。担当する職員により多少の上手下手はあると思うが、結果として、学生が図書館の利用の仕方をきちんと知ることができるようにプログラム化している。
Q. 選書ツアーの予算はどのくらいか、また選んだ本は図書館の蔵書として受け入れているのか。
A. 選書ツアーの枠で予算を確保しており、例年20~30万円程度。学生一人2万円ずつ選書してもらっている。選書した資料は図書館資料として受け入れ、別置している。
Q. 統計データはどのように算出しているか。
A. 図書館システムからデータを抽出している。貸出回数は書誌と紐づいて記録されており、さまざまな分析に活用している。図書館はこのビックデータをもっと活用したほうがよい。
Q. オンラインジャーナルについて、鶴見大学図書館での利用のされ方、またわが国の今後のオンラインジャーナルの動向についてどう展望しているか、私見でよいのでお聞かせいただきたい。
A. 鶴見大学のオンラインジャーナルは、学内からのみアクセス可能で運用しているが、来年4月からはリモートアクセス可能とする予定で準備中。また、今後の動向について、商業誌は3年から5年のうちに多くがオンライン化されるだろうが、かなり高額になると予測される。一方で、学会誌や大学紀要のオンライ化はあまり進まないと考えている。なお、オンラインジャーナルは高額であることから、鶴見大では論文単位で購入したりしている。
Q. 教員との連携が紹介されたが、学科や先生によって対応に差があるか。
A. ある。連携に積極的でない学科にも継続して働きかけを行っている。
Q. 昨今、研究倫理が厳しくなってきているが、これについて図書館の果たす役割をどう考えるか、また何か取組などがあるか。
A. 鶴見大学では、図書館とは別のところで倫理委員会が組織され機能している。
Q. 貴重書はどのように選書しているか。
A. 展示会に使えるもの、といった観点を意識している。また、古筆など専門の先生が学内にいるので、協力してもらっている。
Q. 職員への研修体制はどのようになっているか。
A. 貴重書、電子ジャーナル、ネットワークなどについて研修を行っているが、接遇の研修を実施したいという思いがある。
以上