日時・会場
平成26年11月13日(木曜日) 14時00分から16時00分
かながわ県民センター 5階会議室
参加者
県民参加者:8名 職員参加者:32名
レクチャー概要
パネリスト:鶴見大学 学術情報事務長 長谷川豊祐 氏
筑波大学 准教授 池内淳 氏
県立図書館 調査閲覧課長 土屋定夫
テーマ:「パネルディスカッション 神奈川の県立図書館の明日を考える」
アドバイザー紹介
長谷川豊祐氏
1979年より鶴見大学図書館に勤務、1996年「図書館員のためのインターネット」を立ち上げる。2000年より日本図書館協会出版委員(2011年より委員長)を務める。2008年からは慶應義塾大学通信教育部「図書館・情報学」非常勤講師
池内淳氏
2001年より大東文化大学文学部講師、2007年からは筑波大学准教授(現職)三田図書館・情報学会、日本図書館情報学会に所属。
土屋定夫
県立図書館調査閲覧課課長。新サービス企画担当。
長谷川豊祐 氏
小学生が貴重書を見る、さわる、つくる 小学生×大学×県立図書館
新しいことを始めるのはとても大変なことであるが、すでにあるものをきちんと利用して事業を行うと、どうなるのか。 貴重書を小学生にさわらせるという形で実現させた事例を紹介した。
この事業は、小学生に貴重書を見せるというところから始めたが、初めはどのような反応が返ってくるか分からなかった。実際に貴重書を見せてみると、小学生はそれなりに感動してくれることがわかったので、次のステップとして、ガラスケース越しに見せるのではなく、触ってもらったらどうなるかということをやってみようと思い、神奈川県が募集していた「大学発・政策提案制度」に応募したところ採用され、小学生に大学所蔵の和漢洋の古典籍に直接触れて、その魅力を実感してもらう体験プログラムを進めることになった。
そのプログラムについては、県立図書館と共同でやってみるのも面白いのではないかということで、小学校へ訪問して(または小学生が大学図書館へ来館して)貴重書に触ってもらうという事業を、今年度より合同で行っている。
「未病」「読書推進」プログラムなど
上記、小学生に貴重書をさわってもらうプログラムの他、「未病」に関するプログラムや「読書推進」につながるプログラムも考え中である。「未病」については、保険医療費の削減につながることとして、また、「読書推進」については、図書館はストックとして「蔵書」を持っているので、これを利用して「読書会」を開いたらどうなるか、検討しているところである。
ぼくたちにできることをする
「図書館は大学の心臓」と言われてきたが、「いつでも、どこでも、だれにでも」だけでは限界が来ている。自分たちにできることは何かを考えて実践していく。
図書館同士の連携について
図書館同士の連携は以前から行っている。大学について言うと、大学同士は学生を取り合うライバル同士のはずなのに、大学図書館においては、文献複写や相互貸借などは昔から行ってきている。
そういう意味でも、図書館は相互協力の要となる存在である。
池内淳 氏
神奈川県立図書館と私
つくば市在住であるが、もともと横浜市出身ということもあり、神奈川県立図書館とのかかわりは深く、2006年には上半期に出版された図書の全数調査として県立図書館・川崎図書館・横浜市立図書館の調査を行なっており、また、昨年2013年には9月に県立図書館・川崎図書館においてそれぞれ2日間ずつ、来館者調査を行なった。
かわりゆく時代
県立図書館の60周年記念ロゴの標語「かわりゆく時代にかわらぬ価値を」を受けて、最近20年間では1995年の日本におけるインターネット元年以降、さまざまな変化があったと思うが、我々は、何の違和感もなくそれを受け入れて来ており、「かわらぬ価値」として、図書館は知の殿堂として存続している。
ただし、図書館は図書館として熱心に運営しているものの、情報を提供する機関としての図書館の相対的な価値が下がってきていることは否めない。
また、ネットワークの世界に積極的に関わらないという多くの日本の図書館のあり方は、欧米の図書館界とは異なった側面であると思う。
来館者調査の結果から
県立図書館・川崎図書館における利用者の平均滞在時間は2~3時間であり、これはかなり長い時間と言える。
一方、来館者の男女の比率では、男性が84.1%、女性が15.9%となっており、牛丼チェーンの吉野家でさえ男女比率が8:2であることを考えると、この比率からは女性の来館者がかなり少ないと言える。
女性の来館者が少ないのはたまたまそうであったのか、たまたま少なかったのでないなら、そのことは問題となるのかならないのか。女性の来館者を増やせということではないのだが、このことを、当たり前のこととして問題にしないこと自体が、問題であると思う。
移設・改築
今年度、熊本県立図書館と熊本市立中央図書館がほぼ同時期に改修工事のため休館になることが新聞紙上でも話題となった。長期に休館したり移設するとなった時に、図書館は直接サービスを「何もしない」では済まされない状況にある。
また、移設に関しては、県立図書館は全域サービスをしなくてはならない使命があり、今の場所(神奈川県東部に集中)でよいのかという問題は必ず出てくると思う。
また、「消滅可能性都市」「無居住化地点」という言葉があるように、その結果として今後数十年後には図書館だけでなく、設置母体である自治体そのものが消滅する可能性が出て来ている。
そうした時代を迎えるにあたって、ウェブサイトを核としたネットワークサービス、たとえば電子書籍サービスの提供を実施するなど、何らかの手を打っていく必要があると思う。
オンサイトのサービス
アムステルダム大学の図書館では、図書館は人々が学修する場として存在している。
紙の資料は郊外へ移転させてしまい、必要となったら取り寄せるという方法を取っている。また、大学図書館のラーニングコモンズに見られるように、学生の学習方法やスタンスがどんどん変わってきている。
これらから言えることは、図書館を資料の置き場所としてはいけないということで、人々が快適に過ごせる読書・学習空間とすることが、近年の市民のニーズと合致していると考える。
土屋定夫
県立図書館の現状について
かながわ女性センター
江ノ島の施設は間もなく閉館する。これに伴い、図書資料については、県立図書館へ移管される。移管される資料が多数のため、県立図書館では、レイアウト変更を行う。
生涯学習サポートコーナー
昨年度まで横浜駅西口のかながわ県民センター5階にあった生涯学習情報センターが、4月より県立図書館に集約され、生涯学習サポートコーナーとして県立図書館新館1階に移転した。
情報発信
情報発信に努めている。「司書の出番!」「クリッピング」「神奈川県立図書館本館写真集」「神奈川デジタルアーカイブ」などをホームページ上から発信している。また、「開館60周年特別記念展示」やその他コレクションの展示なども行っている。
鶴見大学との共同プログラム
長谷川氏の発言にもあったが、鶴見大学と共同で和洋古典籍を小学生にみてもらうというプログラム開発を実施している。これについては、公共図書館はそれほど多くの貴重書を所蔵しているわけではないので、鶴見大学と共同で行うところに意味があると思っている。
「明日の県立図書館づくり」プロジェクト
これについては昨年度のプロジェクトであるが、これを受けて、今年度「新サービス企画事業」として、さまざまな企画を検討・実施している。
【パネルディスカッション】
土屋:お二人の先生からのお話を得て、県立図書館の現状を説明したところで、ディスカッションに入りたい。新サービス企画事業は、新たな県立の図書館に向けたことをさまざまに考えようとしている。端緒についたものもある。今後とも注目していただきたい。
池内先生のお話の中で、女性の来館者が少ないということがあったが、これは結果的にそうなっているだけだと思う。来館する女性は多いのだが、長時間滞在される方は少ないのだと思う。
蔵書構成の性格にもよるのかもしれない。
池内:図書館のミッションの結果、女性が少なくなってしまっているのなら、それは問題ないと思うが、この場合、そうではないように思われる。
また、県立図書館の蔵書構成が女性が好まないものになっているとは思わない。私としては、空間的なことも関係していると思っている。たとえば、入館する際にロッカーに荷物を入れるなど、何かしら図書館へ来る際にひっかかるものがあるのではないか?また、男性が多い場所に女性は入りにくいものだと思う。先ほども言っ たが、女性の入館者が少ないこと以上に、そのことが見過ごされているのなら、そちらの方が問題だと思っている。
土屋:図書館が休館する際の問題も出たが、休館せざるを得ない時期というものは必ずある。そういう時は、代替のサービスを必ず実施して、迷惑がなるべくかからないようにしている。
池内先生としては、具体的にどのようなことを実施するのがよいといったようなことがあるか?
池内:ネットワーク上の情報資源を提供していくサービスを行っていくのが良いと思う。貴館でツィッターをやっていると思うが、あれはかなりよいものだと思う。(ちなみに、フォローしている)。
リアルに利用する人と、バーチャルに利用する人がいていいと思うので、さまざまな方に訴えかけることが可能なツィッターは、続けていってもらいたいと思う。
土屋:ありがとうございます。長谷川先生にもお聞きしたいが、大学図書館で何かやっていけることはあるか?
長谷川:我々も、なかなか現状から抜け出せないでいる。「ガラスケースから貴重書を出して、見せる」というのは、実はとてもすごいことである。図書館の中に資源は眠っているが、これを小学 生に見せることで、全く我々の事前の予想とは別の反応が起こった。
県立図書館はどう変わるのかという命題があるかと思うが、建て替えの時に変わらなければ、変わる時がないように思う。
土屋:そのとおりだと我々も思っている。開館から60年経って、今が大きな波が来ていると思う。今変わらなければ、きっと今後も変われない。いろいろとご意見を取り入れていこうと思っているので、これからもよろしくお願いいたします。 池内先生のおっしゃるバーチャルな利用もよいと思うが、まだ現物主義の部分が図書館には残っている。両方をあわせていかなければいけないと考えている。
池内:県立図書館は、一昨年から機能の集約を言われている。
20年前に「電子図書館の時代の到来」という危機があった。ところが、紙の本がなくならないということが分かった途端、「現状でよい」という風潮に戻ってしまった。こうした時期に打って出ることが必ずしも必要だとは思わないが、ネットワークの環境の変化は激しく、公共図書 館はもう少し可能性を追求していく必要があると思っている。
また、お金の問題になるが、図書館の経済的な価値について、欧米では調査を行うと必ず「黒字」になるが、日本や東欧で同じ調査をすると、「赤字」になってしまう。日本では、図書館が「なくてはならないもの」になっていないためだと思われる。 神奈川県立図書館は、今、どこにいっても注目の図書館である。ぜひ頑張ってもらいたいと思う。
意見・質疑
図書館職員:過去にやったことを外見を変えてやってみてはどうかというご意見があったが、そこのところをもう少し詳しく教えてほしい。
長谷川:蔵書の見せ方を変えれば良いだけだと思う。たとえば展示をたくさん実施する。見せていくうちに、何かが見えてくる。当館でやっていることのうちに、「〇〇コーナー」をつくる、というものがある。たとえば、「就活コーナー」をつくる。そうすると関連する本の蔵書回転率が上がる。やってみなければ分からない部分も多いが、借りてもらいたいものを見せていく、という方法である。「資料の見せ方、ストーリーをつくって見せる」ということであり、とにかく読んでもらえるようにすればよいと思う。
県民参加者:県立図書館を、県の財政によって縮小するのはどうかと思う。
また、県立図書館は今2館しかないが、県内に5つくらい、県央地区や湘南地区などに、あっても良いと思う。
また、川崎図書館の移転先にKSPがあがっているが、中に入れてもらったが、川崎図書館の蔵書が入る規模ではなかった。これでは川崎図書館は廃館になってしまう。それには我慢が出来ない。
この図書館がなくなってしまって良いのか。こうしたことを、県立図書館の職員からも、もっと県側に発信していくべきだと思う。
土屋:なかなか言える立場にはなく、考えていることはあるが、もうしばらくお待ちいただきたい。
池内:これだけ情熱をもって声をあげてくださる方はなかなかいない。パッションは大事だと思う。ただ、図書館の方が政治的なことを言うことは憚られる。その分、外部の人間が言っていけばよいと思う。
図書館職員:女性の来館者が少ないということであったが、具体的にどうすればよいと思うか?
池内:どうすべきだという方法はない。来館者の属性に着目してやっていくしかないと思う。ちなみに、市立図書館は女性の利用者が多い。
図書館職員:県立図書館はリタイアされた方の居場所となっている気がする。リタイア後の男性は、地域デビューに失敗する方が多いと聞くが、そうした方々の居場所となっているように思うのだが。
池内:それはとてもいいことだと思う。そういう方々の居場所にどんどんなってほしい。
図書館職員:県立図書館の役割には、県民の方への直接サービスと、図書館への支援と両方あると思うが、お二方のご意見を伺いたい。
長谷川:他の図書館との相互協力でやっていくべきだと思う。
また、図書館というものを良くわからない方々がとても多い。図書館がどう役に立つか分からない人に対して、啓蒙活動のようなことをやっていくべきだとも思う。使ってみれば良く分かってもらえるのだが、使ってみなければ分かってもらえないと思うので。
池内:一般の利用者には、県立・市立の違いは関係ない。
バックアップ型の図書館になると、ますます財政的に厳しくなると思う。利用者のニーズに応えていく図書館でないといけない。
また、今後、図書館を運営できなくなる自治体が出てくるのではないかと思われるので、直接サービスは大事である。同時にオンサイトサービス・非来館型サービスもやっていく必要がある。直接サービスをしないのであれば、存在意義がなくなると思っている。
長谷川:直接サービスはもちろん大事であるが、それが貸出サービスであるかどうかは、また別の問題である。 繰返しやっていけば、人は必ずシンパになってくれる。その結果、今まで来てくれなかった人が、1回来てくれた。そういう事が大事であると思う。
土屋:直接サービスと来館者サービスとは必ずしも一致しないということで、今後、やり方を考えていきたい。
以上