日時・会場

平成25年11月14日(木曜日) 14時00分から16時00分
生涯学習情報センター 研修室

参加者

県民参加者:27名 職員参加者:41名

レクチャー概要

パネリスト:関東学院大学 教授 山本宏義 氏
アカデミック・リソース・ガイド株式会社 代表 岡本真 氏
県立図書館 森谷芳浩
コーディネーター:県立図書館 土屋定夫

テーマ:「パネルディスカッション 県立図書館の新たな方向性」

アドバイザー紹介

山本宏義氏

東京大学卒業。相模原市立図書館長、広島市立中央図書館長を歴任の後、現在は関東学院大学文学部現代社会学科教授。

岡本真氏

国際基督教大学卒業。現在は、アカデミック・リソース・ガイド株式会社の代表取締役・プロデューサーを務める。「神奈川の県立図書館を考える会」主催者。

森谷芳浩

県立図書館「明日の県立図書館づくりプロジェクト」プロジェクトリーダー。

新しい県立図書館に向けた考え方(検討案) [森谷]

「明日の県立図書館づくり」プロジェクト経過概要

明日の県立図書館づくりプロジェクトは今年6月より発足し、県立図書館の中堅職員を主な構成員としている。本プロジェクトには以下のような目的がある。

一つ目に、長期的に目指すべき県立の図書館像(将来構想)の具体的立案、二つ目に今からでもできる図書館づくりの取り組み(事業企画)である。後者については、事業を考案(自由な発想をいかすため「できるかもプラン」と命名)して一枚企画書にまとめ、ねらい、現状と課題、効果、類似例、人・予算等の面から検討している。

この2つの目的を掲げて、学習会や他施設の見学等を行いながら定期的に議論を重ねている。

十数年間の県立の図書館(県立・川崎)の運営

十数年の間に県立の図書館と生涯学習課で検討してきた方向性の中で、主な事柄として以下の点を挙げた。

  1. 県立2図書館の専門分野を明確に分けるという機能面における再編
  2. 市町村図書館と役割分担し、専門的なサービスを支える資料収集
  3. 市町村図書館のための課題解決型モデルの提示
  4. KL-NETの運営などネットワークサービス機能の強化

以上4点である。

その他、現在抱える課題(資料費の削減、常勤職員の削減、施設の老朽化・狭隘化、利用の伸び悩み)を説明した上で、こうした状況下においても現場レベルで独自の事業展開を行ってきたことに触れた。とくに広報・普及事業については力を入れており、イベント等の充実を図っている。「数値目標」においては入館者数、貸出冊数ではなく、イベント参加者数、展示回数などを重視してきた。

図書館づくり3つのテーマ

これまでの県立の図書館の運営を振り返る中で、明らかになった停滞した状況を転換するため、以下の3つのテーマについて検討した。

テーマ1は、「市町村図書館等と協働する図書館づくり」である。
図書館間の協力関係により特定分野の蔵書を構築し、県域全体に資料・情報を提供していく。県立の図書館単体ではなく、他の施設との協力を念頭に入れており、予算の制約の中でいかに資料を充実していくかを考えている。取り組む施策例としては、デポジット・ライブラリーの構築などが考えられる。市町村図書館、県立高校図書館との連携を図りながら、それぞれの収集分野に沿った資料群を構築する。

テーマ2は、「調査研究・相談機能を強化する図書館づくり」である。
県立の専門機関(博物館、美術館、試験研究機関等)の図書室の資料情報を、県立図書館のシステムに統合し、業務の一体化を進める。それにより、それぞれの図書室が持つ特徴ある資料を提供する機会を増やしたり、レファレンスの協力体制を強化したりする。

テーマ3は、「『生きる力』を伝える図書館づくり」である。
現在までのイベントの位置づけを捉え直し(単純にイベント数を増やすのではなく、特定のテーマや目的を設定して事業を展開する等)、人づくり、社会づくりにつながる「学びの場」「発信の場」としての役割を担う施設になることを目指している。そのために博物館、美術館における「教育普及」機能を事業のモデルとして参考にし、検討していく予定である。

テーマ12は、利用する側からの読みたい・知りたいという要求に、幅広く応えていく図書館であり、伝統的図書館モデルと言える。従来の図書館と同じく「サービス」という視点に立っている。一方テーマ3は、図書館側の企図する内容が、利用する側に確実に伝わるよう事業を組み立てていく図書館であり、ターゲット設定モデルと言い換えることができる。これは博物館や美術館でよく用いられる概念で、「プログラム」という視点に立っている。県立の図書館の地盤が揺らいでいる現在、以上のことを検討しながら、状況に応じてやれることを考えていきたい。

山本宏義 氏

大きな財産『ネットワーク』を見える化する

県立の図書館のこれからの展望として、図書館が所有する財産を県民の目に見えるようにすることが大切になる。財産の一つに、県立図書館が築き上げてきた「ネットワーク」がある。相模原市で採用されて以来、長く県内の図書館で仕事をしてきたが、ネットワークについては県立図書館と市町村図書館間でしっかりと連携がとれていると感じていた。

県立図書館は協力車を運行する以前は、自動車文庫を運営し、さらにその後は「さがみの号」として、自動車巡回による図書の提供などを行っていた。また団地居住者を主な対象としたファミリー文庫も当時を賑わせた事業の一つだった。県の方針として、こうした自動車で各地を巡回する事業を取り行う時には、市町村の教育委員会の職員や図書館の職員、県の教育事務所の職員が同乗してサービスを行う、というやり方を取っていた。その精神は、現在の協力車においても変わりない。

また、1990年にKL-NETの運用がスタートした。搬送量の増加に伴い、協力車に宅配サービスが併用されるなど、状況に応じて成長を遂げてきた。こうした協力事業の経緯を見ている中で、神奈川県は古くから県立図書館と市町村図書館が一体となって協力関係が成り立っている、という実感が常にあった。

以上のような功績を県民の方々の目に触れるようにすることが、今の県立の図書館には大切である。ネットワークは目に見えないものなので難しい側面はあるだろうが、長年に渡って築き上げてきた財産を見える化することで、県民の県立図書館に対する意識が変わってくるのではないか。またネットワーク自体を紹介することも大切だが、同時に県民の方々には、ネットワークを生かした仕事を見せていただきたい。

大きな財産『コレクション』を見える化する

県立の図書館が所有する財産の中で、もう一つ大きなものとして「コレクション」がある。今や資料費が減少しているというのは、どこの図書館においても悩ましい問題ではあるが、神奈川県においては県立の図書館における県民一人あたりの図書費が他の都道府県立図書館と比較して全国で最低レベルにある。だが、逆説でいえば、厳選した資料選びができているように思う。市町村図書館が一般書を、県立図書館が市町村では受入が難しいもの・貴重書・専門書を購入する、といった資料収集の棲み分けができている。

また、その他寄付などもあり、県立図書館には戦時文庫、ACC文庫、ベストセラーズ文庫、レコードなど貴重なコレクションが多くある。県立川崎図書館においても、社史、国内外の工業規格、科学技術系の協会・学会誌など、通常では手に入らないものを所蔵している。これらを県民や県職員に分かる状態にしておくことが重要になる。

また、コレクションについては県立の図書館だけでなく、県機関や専門図書館などの資料を含めて県民の財産と理解している。県内すべての財産を見える化し、より多くの人に県立の図書館や県内機関の成果を共有していただきたい。

県立の図書館と市町村図書館の連携事業について

県立図書館から提出されたビジョンの中に関係機関とのシステムの一体化について話があったが、県立に限らず県内のものを一挙に見える化することがやはり重要になる。まずはOPACや横断検索システムでコレクションをすべて見えるようにしてほしい。

また課題となる事業や催しは県立図書館に人を集めるよりも市町村図書館で重点的に実施してもらいたい。県と市町村の共同企画などもよい。それぞれの地域における課題について、地元の図書館と共同企画等を実施するという方向性だ。県は県立の図書館だけではなく、県内の専門機関すべてが県のシステムの一つである、という発想で事業を展開してほしい。県立図書館が築いてきた「ネットワーク」と「コレクション」という財産をもとに、県立図書館が中心になって、県有機関の資料と人材を動員して、県内各地で地元の図書館等と連携して事業を行うということである。

市町村支援のさらなる展開

神奈川県には依然として条例に定める図書館が設置されていない地域(開成・山北・箱根・中井・松田・大井・愛川)が存在する。市町村の図書館では、その地に在住・在勤・在学等の事実がないと貸出サービスが受けられないことも多々ある。そんな中で、これらの地域の人々が何か調べごとをしたいと思った時に、頼るべきは県立の図書館しか存在しない。

このような状況の中、二重行政(県立図書館と横浜市中央図書館が近隣に位置する)という理由から、県立図書館のあり方が見直されるというのは、問題である。最低限、4自治体(公民館設置条例による「図書館」を含めると7自治体)の地域住民に対して、県民として等しく同じサービスを受けられるようにするためには、県立図書館の機能は欠かすことができないだろう。

また来たるべき大災害に備えるという観点からも、県立の図書館機能は縮小されるべきでないと考える。自身、東日本大震災で被災した地域の図書館や博物館の支援活動を2年半行ってきたが、県の図書館があればこそ、市町村の図書館の再建が進むということを常々感じていた。県立図書館が市町村図書館への支援を着実に行ったからこそ、支援者としても大変支援がしやすかったという事実がある。また人々の復興活動において、文化施設が果たす役割はけっして小さくない。生活再建のために、図書館にきて調べごとをすることはおおいにあり得るだろう。つまり県立図書館の機能を縮小することは、災害時に適切な処置が受けられないことを意味している。

図書館協議会の再設置について

今回のアドバイザー・レクチャーは平成12年度に廃止された図書館協議会に代わるものとして設置されたが、本来であれば図書館法に定める図書館協議会を再設置するべきと考える。そもそも図書館協議会とは、図書館の経営に対して館長の諮問に応え、提言を出す機関である。自身も東京都立の協議会委員を二期6年ほど務めたが、最終的な任命は知事からされることが一般的なため、公職性や発言力もある程度はある。協議会をつくることで、今まで以上に行政プロセスを透明化し、政策に県民が関わっていくことが必要になる。

また今回の問題を受けて、「神奈川の県立図書館を考える会」を発足したわけだが、今後は神奈川の図書館サポーターズのような団体に衣替えできないか、と考えている。県立図書館に限らず市町村も含み、県全体の中でどのように図書館振興を図っていくのか、その他さまざまな課題について市民・県民が幅広く議論をする場をつくり、サポーターズ側から出された意見が図書館協議会を通じて図書館行政に反映されるような仕組み作りをしていきたい。

資金調達の検討

図書館は財政上の課題となることはあっても、資金獲得の手段とは成り得ないと考えられているが、実はそうではない。

例に県立川崎図書館をとるが、川崎図書館にある社史や学会誌、その他専門的な資料を求めて全国から足を運ぶ者は少なくない。また県立川崎図書館があるからこそ、県内に事務所や研究所を置くという企業もある。それはつまり、県立川崎図書館の専門性が県の観光事業や法人税収に直結することを意味している。

以上のような例からも分かる通り、図書館は文化・教育のためだけの施設ではない。「図書館は儲からない」のではなく、むしろ図書館の機能を強化することこそ、経済政策、産業政策に繋がるという意識を持ってもらいたい。

【パネルディスカッション】

土屋:山本先生から財産の見える化についてお話がありましたが、森谷の案からも同様の話がありました。

森谷:やはり、県立の図書館が意味のある施設だということを、今まで以上に見せていかなくてはならないのだと思います。その時に、「生きる力」というメッセージ性のあるものも同時に見せていきたいと考えています。

土屋:山本先生から、県立の図書館だけでなく、関係機関や専門図書館などの資料もあわせて、県全体の財産としてはどうか、という話がありましたが、これは具体化できそうですか。

森谷:システムの統合にも関わってきますが、県立2館だけでなく、他の専門図書館等のシステムの一体化が実現すれば、相互貸借もより活性化するのではないでしょうか。その他にもレファレンスの連携など、システムが一体化することによって、今まで以上に関係機関との協力体制が整うと思います。

土屋:図書館協議会について岡本先生から話がありましたが、館長としてはどのような考えをお持ちですか。

館長:協議会に関しては、図書館だけではなく県のあらゆる機関における見直しの一環として、平成12年度に条例改正により廃止になりました。議会を通じて決定したことなので、職員の一存ですぐに協議会を再設置するというのは難しいでしょう。県全体として協議会をどのように位置づけていくかというのは、色々な働きかけがなければならないと思います。しかし今や、情報公開や第三者から評価を受けるというのは当然のことです。図書館としても、今できるレベルの中で多くの県民の方々から意見を聞くような機会を設けていくつもりでいます。昨年度から実施している利用者の方から意見を聞く会については、今年度も継続する予定で進めています。また、このような場で協議会についてご意見があったことは、その都度教育委員会に知らせていきたいと思っています。

土屋:森谷の案についてなにか山本先生からご意見ありますか。

山本:テーマ1において、デポジット・ライブラリーについてお話がありましたが、コレクションという財産を保管する場所は確かに必要です。しかしそれを県立の図書館だけで背負うというのは難しいので、この時にネットワークを使うことで解決していく、という考え方は大切だと思います。しかし、保存するだけではなく、活用してもらうということを忘れないでいただきたいです。

土屋:かながわ女性センター図書館の閉館に伴い、その資料を県立図書館で引継ぐことになりますが、資料をもらうだけではなく、その資料を活かしていくことについても考えています。ただ女性センター図書館は専門図書館なので、専門図書館ならではのサービスの仕方があると思います。資料を引き継いだ時に今までと同様、もしくはそれ以上のサービスができるのかというところが懸念されますが、我々職員も勉強していかなければならないと感じているところです。

土屋:森谷の案についてなにか岡本先生からご意見ありますか。

岡本:ミュージアム・エデュケーターの話がありましたが、今図書館に求められているのはライブラリー・エデュケーターという考え方だと思います。情報を活用していく能力を育成するということかと思いますが、図書館が社会教育・生涯学習においてできることはまだまだあるでしょう。これに関しては、県が模範を示すことが大切ではないでしょうか。政令指定都市の横浜市ですら、県の事業(たとえば県立川崎図書館で行っているサイエンスカフェ)を参考にしてイベントを企画しているという話を聞きました。県が率先してモデル事業を行っていき、また山本先生のお話しにもあったように、事業を県立の図書館内にとどめずに市町村に分散させることが必要だと思います。
また協議会については、平野館長からもお話があったように、条例改正を必要としていることなので簡単ではありません。しかし、市民・県民が政策形成や行政の執行に何らかの形でかかわっていく仕組みをつくることはやはり重要だと思います。たとえ、オフィシャルな場でなかったとしても、県民が議論する場を自分たちでつくって良いのです。私たちの図書館について、どうするのかということを諦めないで議論していくことが必要です。

意見・質疑

図書館における県議会での発言をすべて聞いた。話が二転三転していて、理不尽であると感じる。県立の図書館には専門性ある貴重な資料がある。また図書館職員の方々の問題に対する熱意を常々感じる。今まさに図書館における地盤が揺らいでいると痛感するが、今後も今回のような県民と職員が意見を交換する場を積極的に設けてほしい。(県民参加者)

県立川崎図書館が産業・技術系に特化している一方で、県立図書館においてはなにか特化する分野をつくるという検討はないのか。本日の話だと市町村図書館の支援に重点を置くという内容だったが、資料収集についてはどうか。(職員参加者)

岡本:県立図書館でも、ある分野に特化した資料を揃えることが求められるだろうが、段階的に考える必要がある。まず条例に定める図書館が設置されていない4自治体(公民館設置条例による「図書館」を含めると7自治体)をなんとかすることが急務となる。これらの自治体において、現在のような状態が続くのであれば県がサポートしていかざるを得ない。つまりこれらの地域の県民が求める一般書もある程度揃えざるを得ないということになる。逆説だが、これらの自治体において図書館が設置されれば、その分市町村ではできないことに力を入れることができるということだ。そうなれば、県立図書館は今まで以上に人文・社会系に特化することができる。調査研究に適した図書館が実現すれば、日本中から神奈川の図書館をあてにして来館する人も増えるだろう。先にも述べたように、図書館の活性化が観光プロモーションであり、産業誘致、起業促進にもつながる。

土屋:神奈川ブランドという言葉があるが、県立川崎図書館ではなく横浜の県立図書館で何かできないかと考えたことがある。ある分野に特化する、もしくはオールマイティに資料を収集するなど議論があるが、まだ決定していない。今後も議論を続け、新たな方向性について考えていきたい。

以上