日時・会場
平成24年2月9日(木曜日) 15時00分から16時30分 県立川崎図書館 2階ホール
レクチャー概要
アドバイザー:日本図書館協会 常務理事 西野 一夫 氏
テーマ:「災害と図書館-「Help-Toshokan」の活動から見えてきた、県立図書館の役割-」
アドバイザー紹介
西野氏は、1972年川崎市役所に入所し、1977年より川崎市の図書館に勤務、大学で非常勤講師をしつつ、日本図書館協会で常務理事としてボランティア活動を続けている。
本アドバイザー・レクチャーでは、日本図書館協会が東日本大震災後早い時期から復興支援として実施してきた「Help-Toshokan(外部リンク)」活動の概要が多くの写真とともに紹介され、「Help-Toshokan」活動を通して浮かび上がってきた県立図書館の役割について講義が行われた。
東日本大震災で起きたこと
壊滅した図書館は、岩手県で4館、宮城県で3館、福島県では、原発事故で開館できない図書館が6館、地震被害で現在も開館できない図書館が1館となっている。
激甚災害法に基づく社会教育施設への補助金は、第1次補正予算で70館、87億円、第3次補正予算で251館、329億円である。
Help-Toshokan(第1期・4月から5月)活動
3月中に図書館を再開するという強い意志を伝えてきた宮城県の気仙沼市図書館を基点として支援を開始した。その際、震災直後から気仙沼市に拠点を置き、ボランティア活動を行っていたシャンティ国際ボランティア会の活動拠点を宿泊地として使わせてもらうことができた。シャンティ国際ボランティア会とは、アジアの子どもたちへの教育・文化支援を行っている公益社団法人である。気仙沼市図書館に相談しながら、気仙沼市域を集中的に読書支援する中で、支援のノウハウをつかんでいった。支援活動は木曜日から日曜日の計4日間をサイクルとし、4月下旬から5月末までの間に計4回行った。4回の支援活動で訪問した施設数は、小学校5校、幼稚園・保育所6か所、避難所7か所、図書館2か所、参加者は700名、配本した本の数は2,400冊、支援に参加したボランティアは51名であった。支援活動の内容としては、おはなし、紙芝居、映画、配本等であった。
災害支援というと、テントでずっと寝泊りして活動を続けるというイメージであったが、初期の支援では、短期であっても引継ぎをきちんと行い、交替しながら支援を続けていくことも一つの方法である。人員を交替することで、支援する側も疲労をためることなく継続的な支援を行うことが可能となる。
Help-Toshokan(第1期・6月から8月)活動
第2期では、気仙沼市域だけではなく、東北全体へ支援活動を拡大していった。活動内容としては、災害対策関係資料の電子書籍化事業の開始、廃車となった移動図書館車の活用、大活字本の図書館への提供(50冊セット×40館=計2,000冊)、被災地購読紙の欠号補充(東北3県、64館、47紙、1867号)、フィルムコーティング講習会の開催、福島県矢吹町図書館の蛍光灯落下によるガラス片除去活動支援である。また、日本図書館協会でボランティア登録管理システムを公開したところ、80名の登録があった(平成24年2月の時点では100名を超えている)。
Help-Toshokan(第3期・9月から12月)活動
震災から半年が経過し、被災した県の県立図書館では市町村図書館支援、巡回が行える状況となってきた。そのような中、被災後半年を経ても再開の計画が立てられない南三陸、女川、陸前高田等の図書館再開に向けた事業支援を行った。また、原発事故により二次的避難を余儀なくされている福島県民のために、避難者がいると思われる山形県、新潟県を中心とした図書館に、「福島民友」「福島民報」を提供した(各25部50館)。さらに、第1期活動で撮影した現地の被災状況や復興状況等を撮影した写真を展示用パネルにしたものを貸出したところ、27館で利用された。現時点では約40館の利用となっている。
その他、破損本の修理講習会を各地で開催したり(14回開催、265名参加)、松竹が立ち上げた寅さんプロジェクトによって、被災地で「男はつらいよ」の上映会等を行った。
今後の視点
今後の支援活動を持続的に行っていくにあたって必要な6つの視点があげられた。
(1) 支援者・支援団体の調整機能
各県の県立図書館との連携を密にし、また、文科省、国立国会図書館、図書館振興財団、シャンティ国際ボランティア会等との連絡機能を充実させ、今後も日本図書館協会が図書館のナショナルセンターとしての役割を果たしていく。
(2)持続的な支援活動体制を作る
1被災した図書館の立ち上がりを支援する
南三陸町の仮設図書館での支援を例に説明された。
2被災した資料の復旧と媒体変換を行う
岩手県の陸前高田市立図書館所蔵「吉田家文書」(岩手県指定文化財)が津波被害を受け、原本は県立博物館で修復中、一方県立図書館でマイクロフィルム化されている2次資料はNPO法人でデジタル化され現地の古文書研究会に寄贈された。
3日常活動でできる支援を考える
三重県立図書館「東北を知ろう、東北に行こう」月間の開催
三重県立図書館が県内の図書館、大学に呼びかけて、東北を知るための本の展示会等を各館の規模に応じて行い、日常的な図書館活動の延長で支援を行う例が紹介された。
立川市立図書館「絵本を届けよう!-石巻市図書館へ 新しい絵本を-」
立川市立図書館が図書館事業として展開した絵本の献本運動が紹介された。これは、立川市立図書館が選定した絵本のセットを、市民による募金や協力書店で購入して送るというものである。支援で必要な本は図書館で廃棄した古本ではなく、新鮮な、新しい本であるということが強調された。
(3) 災害復旧のための政策提言
1図書館復興計画の立案
- 「原形復旧」を原則としない。まずは、「仮設図書館」「仮設書店」への支援から始める。
- まちづくり計画に位置づける。
災害時こそ図書館が情報拠点、コミュニティ-の核であることが明らかとなった。そのことを自覚して、集落に生きる図書館の再興を行うことが必要である。
- 障害者サービスやデータベースの提供、学校図書館との連携など、求められるサービスが実現できる計画立案をする。
2本格的図書館整備のための支援要員の派遣
遠野市支援拠点構想、関西広域連合の協定、滝沢村(岩手県)の野田村支援の例が紹介された。
(4) リスクマネジメントマニュアルの改訂
1災害を防ぐ
東日本大震災では、建物だけでなく、システム、データも失われた。本のデータを失っては、蔵書を復元することが不可能となる。システム、データを守ることは重要である。
2命を守る
子どもたちにも耐えられる避難路、避難所への経路確認、帰宅困難者への対応等が必要である。図書館も帰宅困難者を収容する施設になり得る。
3事業を立ち上げる
4支援を要請する
(5)記憶と記録を残す
図書館も中心となって、被災状況、復興状況の記録、市民の記録を残す必要がある。
(6) 義援金の募集継続
リスクマネジメントマニュアルの作成と公開
県内ネットワークを活用した被災・復興・再開情報の収集公開
災害時には、公共図書館だけではなく、大学、専門図書館の情報も収集する。普段から館種をこえたネットワークをつくっておくことで、災害時に協力体制がすばやくできる。
被災した県内図書館の復興の支援
情報過疎をなくす、市町村支援の窓口となる、支援要請掲示板を立ち上げるということがあげられる。国の掲示板より、普段からつながりのある県立図書館の掲示板の方が、まず見られると考えられるため、県立図書館、図書館協会が掲示板を立ち上げるようにすることは有効である。
また、古本は送らず、求められた本を送ることも重要である。求められた本を送る場合にも、直に被災した図書館に送ると地元の書店の売り上げに影響を与えるので、必ず地元の書店を通して送るようにする。
アーカイブを残す
民間の活動は記録として残ることが多いので、県立図書館は行政(県)の復興活動を記録する。